本記事にはプロモーションを含みます

【硬膜外麻酔の合併症】研修医が知りたい硬膜穿刺と血管内投与の防ぎ方

硬膜外麻酔の合併症で必ず知ってほしい硬膜穿刺と血管内投与を示すアイキャッチ画像 区域麻酔・鎮痛

硬膜外カテーテルを留置したあと、上級医が少量の薬を投与して、しばらく脈拍と血圧を見ている。なぜすぐに本番の量を投与しないのか、何を待っているのか。硬膜外麻酔の合併症を知ると、この時間の意味が分かります。

こんな疑問はありませんか
  • 硬膜外麻酔の合併症を整理したい
  • 硬膜穿刺がなぜ問題なのか知りたい
  • テストドーズで何を確かめているのか知りたい
  • カテーテルを抜くときの注意を知りたい

硬膜外麻酔の合併症の多くはまれですが、起きると重いものがあります。研修医に必ず知ってほしいのは、硬膜穿刺と血管内投与の2つです。そして、それを確かめるのがテストドーズです。

テストドーズの意味が分からない研修医のアイコン
研修医

硬膜外カテーテルを留置したあと、最初に少しだけ薬を投与するのはなぜですか。

現役麻酔科医のアイコン
麻酔科医

それがテストドーズです。カテーテルが血管やくも膜下腔に入っていないかを確かめているんですよ。

この記事では、硬膜外麻酔の合併症の全体像、硬膜穿刺、血管内投与、テストドーズ、抗血栓薬と硬膜外血腫、カテーテルを抜くときの注意を順に整理します。硬膜外麻酔の基本は【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかで解説しました。

硬膜外麻酔の合併症の全体像

硬膜外麻酔の合併症の全体像を表すバナー画像

硬膜外麻酔の合併症は、いつ起こるかで分けると整理しやすくなります。針を刺すとき、薬を投与するとき、術後にカテーテルを留置している間、そしてカテーテルを抜くときです。それぞれの時期に、注意する合併症が違います。研修医に筆者が必ず伝えているのは、硬膜穿刺と血管内投与の2つです。

時期で分けて考える

硬膜外麻酔の主な合併症を、起こる時期で分けると次のようになります。

  • 針を刺すとき:硬膜穿刺、血管穿刺、神経の損傷
  • 薬を投与するとき:血管内投与による局所麻酔薬中毒、くも膜下投与、血圧低下
  • カテーテルを留置している間:硬膜外血腫、感染
  • カテーテルを抜くとき:硬膜外血腫、カテーテルの遺残

時期ごとに何が起こりうるかを知っておくと、観察するポイントが分かります。合併症は、起こる時期とセットで覚えます。

頻度は低いが重いものがある

硬膜外血腫や局所麻酔薬中毒は、頻度としてはまれです。それでも、起きると麻痺やけいれん、心停止につながることがあります。

まれだからこそ、多くの研修医は実際に出会うことがありません。出会ったことがない合併症ほど、知識として先に知っておくことが大切です。

研修医に必ず知ってほしい2つ

筆者が研修医に必ず伝えているのは、硬膜穿刺と血管内投与です。

どちらも、硬膜外カテーテルが本来の場所である硬膜外腔からずれていることで起こります。この2つを確かめるために、テストドーズを投与しています。この記事では、まずこの2つから詳しく見ていきます。

硬膜穿刺

硬膜穿刺を表すバナー画像

硬膜穿刺は、硬膜外腔を探して進めた針が、硬膜を越えてくも膜下腔まで達してしまうことです。硬膜外麻酔の針は脊髄くも膜下麻酔の針より太いため、穿刺したあとに頭痛が起こりやすくなります。また、気づかずにカテーテルがくも膜下腔に入れば、薬が効きすぎる原因になります。硬膜穿刺は、その場で気づくことが何より大切です。

硬膜穿刺とは

硬膜外腔は、硬膜の外側にあるすき間です。針をゆっくり進め、抵抗がなくなったところで止めるのが硬膜外麻酔の基本です。

針が進みすぎて硬膜を越えると、針から髄液が流れ出てきます。針から透明な液体が出てきたら、硬膜穿刺を疑います。脊髄くも膜下麻酔との違いは【脊髄くも膜下麻酔とは】硬膜外麻酔と何がどう違うのかで解説しました。

穿刺のときには気づかず、術中に薬を投与しようとしてカテーテルから吸引したときに、髄液が引けて初めて気づくこともあります。筆者は、術中に薬液を投与する前にも、毎回吸引してから投与するようにしています。

硬膜穿刺後頭痛

硬膜にあいた穴から髄液が漏れると、頭痛が起こることがあります。硬膜穿刺後頭痛(post-dural puncture headache:PDPH)と呼ばれます。

  • 起き上がると強くなり、横になると軽くなる
  • 術後数日以内に出ることが多い
  • 首の痛みや吐き気を伴うことがある

体を起こしたときに強くなるのが特徴です。術後に頭痛を訴えたら、体位で強さが変わるかを確かめます。

硬膜穿刺後頭痛の治療

硬膜穿刺後頭痛は、時間とともに軽くなることが多い合併症です。海外の複数の学会が合同でまとめたガイドラインでは、次のような対応が挙げられています(出典:Uppal V, et al. Postdural puncture headache: a consensus report from a multisociety international working group. Reg Anesth Pain Med 2024)。

  • 水分をとってもらう
  • アセトアミノフェンやNSAIDsなどの鎮痛薬
  • 発症早期のカフェイン
  • 日常生活に支障が続くときは硬膜外自己血注入(ブラッドパッチ)

同じガイドラインでは、予防のためのベッド上安静や、予防的なブラッドパッチは勧められていません。頭痛が強いときや長引くときは、早めに上級医やペインクリニックに相談します。

気づいたときの対応

硬膜穿刺に気づいたら、すぐに上級医に伝えます。

別の椎間で穿刺し直すのか、硬膜外麻酔をやめてほかの鎮痛方法にするのかは、上級医と相談して決めます。術後には、頭痛が出ないかを観察します。硬膜穿刺をしたことは、必ず記録に残して術後の担当者に伝えます。

筆者も経験がある

筆者も、硬膜穿刺をしたことがあります。

ただ、どれだけ経験を積んでも、硬膜穿刺の可能性はゼロにはなりません。起きたときに慌てず、正直に伝えて対応することが大切です。

血管内投与

血管内投与を表すバナー画像

硬膜外腔には静脈が多く通っています。針やカテーテルがこの血管に入ったまま局所麻酔薬を投与すると、薬が直接血液に入り、局所麻酔薬中毒を起こすことがあります。プラクティカルガイドによると、硬膜外ブロックによる局所麻酔薬中毒は1万症例あたり1.2〜11例と報告されています(出典:日本麻酔科学会「局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド」)。血管内投与は、気づかないまま起こりうる合併症です。

硬膜外腔には静脈が多い

硬膜外腔には、硬膜外静脈叢と呼ばれる静脈の網があります。とくに妊婦では、この静脈が太くなっています。

カテーテルを進めるときに、この静脈に入ってしまうことがあります。カテーテルから血液が引けたら、血管内に入っている可能性を考えます。

また、多くの硬膜外カテーテルは、先端の近くに複数の穴があいている多孔式です。カテーテル全体が血管に入っていなくても、どれか1つの穴が血管内にあれば、投与した薬の一部はそこから血管に入ってしまうのです。

カテーテルから血液が引けたとき

カテーテルを留置したあとに吸引して血液が引けたら、そのまま局所麻酔薬を投与してはいけません。カテーテルの先端が血管の中にある可能性があるからです。

筆者は、カテーテルを少し引き抜いてから、もう一度吸引します。硬膜外腔に残せる長さの限界まで引き抜いても血液が引けるようなら、あきらめて穿刺し直します。血液が引けたカテーテルからは、薬を投与しません。

予防の基本は局所麻酔薬中毒と同じ

吸引で血液が引けなくても、血管内投与を確実に防げるわけではありません。プラクティカルガイドは、局所麻酔薬を少量(3〜5mL)ずつ分けて投与し、そのたびに時間をおいて観察するよう勧めています(出典:日本麻酔科学会「局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド」)。

吸引の確認と分割投与は、どの局所麻酔でも共通する予防の基本です。詳しくは【局所麻酔薬中毒の対応】研修医が押さえる症状と最初にやることにまとめました。

テストドーズで確かめること

テストドーズで確かめることを表すバナー画像

テストドーズは、本来の量の局所麻酔薬を投与する前に、少量の薬を試しに投与することです。カテーテルが血管内やくも膜下腔に入っていないかを、本番の前に確かめるのが目的です。テストドーズは、硬膜穿刺と血管内投与を見つけるための確認です。何を見ているかを知っておくと、テストドーズのあとに研修医が見るべきポイントも分かります。

テストドーズとは

テストドーズでは、アドレナリンを加えた局所麻酔薬を少量投与することが多くあります。

投与したあと、脈拍、血圧、足の動きや感覚の変化を数分間観察します。何も起こらないことを確かめてから、本番の量を投与します。

血管内投与の見分け方

プラクティカルガイドでは、硬膜外カテーテルから10〜15μgのアドレナリンを投与したあと、脈拍が10回/分以上、または収縮期血圧が15mmHg以上上がった場合は、血管内投与の可能性が高いとしています(出典:日本麻酔科学会「局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド」)。

アドレナリンが血管に入ると、すぐに脈拍が速くなるためです。テストドーズのあとは、脈拍と血圧の変化を見逃さないようにします。

くも膜下投与の見分け方

カテーテルがくも膜下腔に入っていると、少量の局所麻酔薬でも脊髄くも膜下麻酔のように効きます。

  • 足が動かしにくくなる
  • 広い範囲で感覚が鈍くなる
  • 血圧が急に下がる

テストドーズのあと数分で、こうした変化が出ないかを確かめます。少量で強く効きすぎたら、くも膜下腔に入っている可能性を考えます。

見分けにくい患者もいる

プラクティカルガイドは、β遮断薬を内服している患者、高齢者、鎮静されている患者では、脈拍の上昇で見分けられない可能性があるとしています(出典:日本麻酔科学会「局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド」)。

テストドーズで反応がなくても、カテーテルの位置が正しいとはかぎりません。テストドーズのあとも、分けて投与しながら観察を続けます。

硬膜外血腫と抗血栓薬

硬膜外血腫と抗血栓薬を表すバナー画像

硬膜外血腫は、硬膜外腔に出血して血のかたまりができ、脊髄を圧迫する合併症です。頻度はまれですが、気づくのが遅れると下肢の麻痺が残ることがあります。抗血栓薬を内服している患者では、穿刺やカテーテルを抜くタイミングに注意が必要です。抗血栓薬を使っている患者では、カテーテルを抜くタイミングが変わります。

頻度はまれだが麻痺につながる

抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドラインで紹介されている調査では、硬膜外麻酔後の血腫は約1万8,000例に1例、別の調査では約2万6,400例に1例でした(出典:日本ペインクリニック学会・日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」)。

まれな合併症ですが、脊髄が圧迫されると、両足が動かなくなることがあります。まれでも、早く見つければ麻痺を防げる合併症です。

抗血栓薬で抜去のタイミングが変わる

抗凝固薬や抗血小板薬を使っている患者では、薬が効いている間にカテーテルを抜くと出血しやすくなります。

そのため、薬の種類ごとに、最後の投与から抜去までの時間と、抜去から再開までの時間がガイドラインで示されています(出典:日本ペインクリニック学会・日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」)。術後に抗凝固薬が始まる患者では、抜去のタイミングを病棟や主治医と共有しておきます。抗血栓薬と区域麻酔の関係は【末梢神経ブロックとは】硬膜外麻酔と何が違いどんなときに選ぶのかでも触れました。

術後は下肢の筋力を観察する

ガイドラインは、硬膜外血腫の徴候として、とくに下肢の筋力低下に注意するよう求めています。4時間ごとに観察し、カテーテル抜去後24時間まで続けるとしています(出典:日本ペインクリニック学会・日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」)。

局所麻酔薬の効果で足が動かしにくいのか、血腫で動かないのかは、見分けにくいことがあります。予想より強い、または長く続く足の動かしにくさは、上級医に伝えます。

疑ったらすぐにMRI

血腫を疑う症状が出たら、すぐにMRIで確かめ、整形外科や脳神経外科と手術を検討します。ガイドラインは、症状が出てから12時間以内に除圧の手術を行うべきだとしています(出典:日本ペインクリニック学会・日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」)。

時間との勝負になる合併症です。おかしいと思ったら、朝まで待たずにすぐ連絡します。

カテーテルを抜くときの注意

硬膜外カテーテルを抜くときの注意を表すバナー画像

硬膜外カテーテルを抜くのは、病棟や術後の回診で研修医が担当することもある処置です。ただ抜くだけに見えますが、抜く前と抜いたあとに確かめることがあります。抜く前には抗血栓薬のタイミングを、抜いたあとにはカテーテルが先端まで抜けているかを確かめます。カテーテルは、抜く前と抜いたあとの両方で確かめます。

抜く前にタイミングを確かめる

カテーテルを抜く前に、抗凝固薬や抗血小板薬が投与されていないか、最後の投与からどのくらい時間がたっているかを確かめます。

とくに、術後に血栓予防の抗凝固薬が始まっている患者では注意が必要です。抜去のタイミングが分からなければ、抜く前に上級医に確認します。

先端まで抜けているかを確かめる

カテーテルを抜いたら、先端まで抜けているかを必ず確かめます。

  • 先端の印が残っているか
  • 途中でちぎれていないか
  • 目盛りで抜けた長さが合っているか

カテーテルの一部が体内に残ってしまうことを遺残といいます。抜いたカテーテルを捨てる前に、先端を自分の目で確かめます。

抜けにくいときは無理に引かない

カテーテルが抜けにくいときは、無理に強く引っ張らないようにします。

強く引くと、カテーテルがちぎれて体内に残る原因になります。抜けにくいときは、体位を変えるなどして上級医と相談します。抜いたあとも、刺入部からの出血や下肢の動きを確かめます。

硬膜外麻酔の合併症のよくある質問

硬膜外麻酔の合併症のよくある質問を表すバナー画像

研修医からよく出る質問をまとめました。実際の対応は施設の手順と上級医の指示に従ってください。迷ったら、下肢の動きと頭痛の有無を確かめてから上級医に伝えます。

硬膜穿刺をしたら硬膜外麻酔はやめますか

施設や症例によって違います。別の椎間で穿刺し直すこともあれば、ほかの鎮痛方法に切り替えることもあります。どうするかは、その場で上級医と相談して決めます。

テストドーズで何も起きなければ安全ですか

安全とはかぎりません。β遮断薬を内服している患者や高齢者、鎮静中の患者では、反応が出にくいことがあります。テストドーズのあとも、少しずつ分けて投与しながら観察を続けます。

硬膜外麻酔で血圧が下がるのはなぜですか

局所麻酔薬が交感神経を遮断し、血管が拡張して末梢血管抵抗が下がるためです。効いている範囲が広いほど、血圧は下がりやすくなります。詳しくは【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかのよくある質問で解説しました。

硬膜外膿瘍はどんなときに疑いますか

カテーテルを留置している間や抜いたあとに、発熱、強い背部痛、刺入部の赤みや膿が出たときに疑います。刺入部は、毎日の回診で必ず見るようにします。まれな合併症ですが、血腫と同じく下肢の麻痺につながることがあります。

術後の観察で研修医が気をつけることは何ですか

下肢の動き、感覚、頭痛、刺入部の様子、血圧です。とくに下肢の筋力は、硬膜外血腫を早く見つける手がかりになります。

カテーテルが抜けかけていたらどうしますか

刺入部の固定がはがれ、目盛りが変わっていたら、カテーテルが抜けかけている可能性があります。自分で押し戻さず、上級医に伝えます。

まとめ 硬膜外麻酔の合併症

硬膜外麻酔の合併症のまとめを表すバナー画像

硬膜外麻酔の合併症は、針を刺すとき、薬を投与するとき、カテーテルを留置している間、抜くときに分けて考えると整理できます。研修医に必ず知ってほしいのは硬膜穿刺と血管内投与で、それを確かめるのがテストドーズです。抗血栓薬を使っている患者では抜去のタイミングが変わり、抜いたあとは先端まで抜けているかを確かめます。

この記事の振り返り
  • 合併症は起こる時期で分けて考える
  • 硬膜穿刺は透明な液体で気づく
  • 吸引テストだけでは血管内投与を防げない
  • テストドーズで血管内とくも膜下を確かめる
  • 抜去は抗血栓薬のタイミングと先端を確かめる

次にテストドーズを投与する場面に立ち会ったら、脈拍と血圧、足の動きを一緒に見てみてください。何を確かめているのかが分かると、硬膜外麻酔の見え方が変わります。

当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。硬膜外麻酔の基本は【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかに、術後鎮痛の考え方は【術後鎮痛の方法】研修医が迷う決め方と組み合わせの考え方にまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。

コメント