本記事にはプロモーションを含みます

【術後鎮痛の方法】研修医が迷う決め方と組み合わせの考え方

術後鎮痛の方法を表すアイキャッチ画像 区域麻酔・鎮痛

「術後鎮痛って、どうやって決めているんですか」。麻酔科をローテートしている研修医から、よく聞かれる質問です。硬膜外にするのか、PCAにするのか、神経ブロックを足すのか。指導医が立てた計画を見ても、なぜそうなったのかが分からないまま終わってしまうことがあります。

こんな場面はありませんか
  • 術後鎮痛の決め方が分からない
  • 硬膜外とPCAの違いがあいまい
  • どの手術に何を使うか迷う
  • 鎮痛薬の副作用が気になる

決め方には、ある程度の型があります。土台になる鎮痛薬を決め、手術に合わせた方法を足し、足りない分をレスキューで補うという順番です。

術後鎮痛の決め方に迷う研修医のアイコン
研修医

術後鎮痛って、どうやって決めているんですか。

現役麻酔科医のアイコン
麻酔科医

まずは過去の同じような症例の麻酔記録を見てみてください。そこに施設のやり方が残っていますよ。

この記事では、土台になる鎮痛薬、主な鎮痛方法、手術に合わせた組み合わせ、そして迷ったときの調べ方を整理します。

術後鎮痛の決め方で迷う理由

術後鎮痛の決め方で迷う理由を表すバナー画像

術後鎮痛は、手術が終わってから考えるものではありません。麻酔の計画を立てる段階で、どの方法を使うかを決めておきます。硬膜外カテーテルの留置や神経ブロックは、麻酔導入の前後に行うことが多いからです。ところが、その決め方を言葉で教わる機会はあまりありません。迷うのは知識が足りないからではなく、決め方の型を知らないからです。

手術の前に決めておくもの

術後鎮痛の方法は、術前の段階で決めておきます。

硬膜外カテーテルは麻酔導入の前に留置することが多く、神経ブロックも導入の前後や手術の終わりに行います。手術が終わってからでは間に合わないものがあるため、術前評価のときに抗血栓薬の内服なども合わせて確認しておきます。

  • 硬膜外カテーテルは導入の前に留置する
  • 神経ブロックは導入の前後か手術の終わり
  • 抗血栓薬の内服を術前に確認する

術後鎮痛は、麻酔計画の一部として最初から組み込むものです。術前に見る項目は【術前評価のポイント】麻酔科医が手術前日までに見る項目にまとめました。

施設ごとに答えが違う

同じ手術でも、施設によって術後鎮痛の方法は違います。

神経ブロックをよく使う施設もあれば、硬膜外麻酔を中心にする施設もあります。術後に患者を見る病棟の体制や、使い慣れた方法によっても選択は変わってきます。

  • 得意とする鎮痛方法の違い
  • 術後に患者を見る病棟の体制
  • 外科との取り決め

ですから、どこでも通用する正解を探すより、自分の施設のやり方を知るほうが先です。

決め方を言葉で教わらない

研修医から多いのが、術後鎮痛をどうやって決めているのか分からないという質問です。

指導医は経験から自然に決めていることが多く、その理由をいちいち説明しません。研修医の側から見ると、症例ごとにばらばらの方法が選ばれているように見えてしまいます。

決め方には型があり、それを知れば指導医の計画が読めるようになります。

土台になる2つの鎮痛薬

土台になる2つの鎮痛薬を表すバナー画像

術後鎮痛の組み立ては、土台になる鎮痛薬から始まります。筆者は、禁忌がなければアセトアミノフェンかNSAIDsのどちらかを必ず使っています。欧州区域麻酔学会のPROSPECTでも、術式ごとの推奨のなかでアセトアミノフェンとNSAIDsが基本の鎮痛薬として挙げられています(出典:PROSPECT 人工膝関節置換術の推奨)。どちらかを土台に置いてから、手術に合わせた方法を足していきます。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェンは、土台の候補になる鎮痛薬の1つです。

静注と内服があり、手術中から使い始めることもできます。肝機能障害のある患者では注意が要りますが、NSAIDsが使いにくい患者でも使えることが多い薬です。

  • 静注と内服がある
  • 手術中から使い始められる
  • NSAIDsが使いにくい患者にも使いやすい

NSAIDsが使えないときにも、土台を作れる薬です。

NSAIDs

NSAIDsも、土台の候補になる鎮痛薬です。

アセトアミノフェンとは効き方が違う薬で、患者の状態や手術に合わせてどちらを使うかを選びます。ただし禁忌があります。日本麻酔科学会の医薬品ガイドラインでは、NSAIDsの項目で消化性潰瘍、重篤な肝障害や腎障害、重篤な心機能不全、アスピリン喘息などが禁忌として挙げられています(出典:日本麻酔科学会 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版 鎮痛薬・拮抗薬)。

  • 消化性潰瘍
  • 重篤な肝障害や腎障害
  • 重篤な心機能不全
  • アスピリン喘息

どちらを選ぶにしても、禁忌の確認が前提になります。

オピオイドの位置づけ

オピオイドは、強い鎮痛作用をもつ薬です。

一方で、嘔気、便秘、眠気、呼吸抑制といった副作用があります(出典:日本麻酔科学会 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版 鎮痛薬・拮抗薬)。PROSPECTの人工膝関節置換術の推奨では、オピオイドは術後のレスキューとして取っておくものとされています(出典:PROSPECT 人工膝関節置換術の推奨)。

ただ、これは海外の推奨です。日本の現場では、オピオイドをレスキューとして使う場面はあまり多くないと感じています。

  • 強い鎮痛作用がある
  • そのぶん副作用も多い
  • 日本ではレスキューに使う場面が少ない

海外の推奨と日本の現場が違う、分かりやすい例の1つです。

術後鎮痛の主な方法

術後鎮痛の主な方法を表すバナー画像

土台の鎮痛薬に、手術に合わせた方法を足します。主な方法は、硬膜外麻酔、IV-PCA、神経ブロックの3つです。外科医が創部に局所麻酔薬を浸潤させる方法を組み合わせることもあります。どれか1つを選ぶのではなく、土台に何を足すかという考え方です。

硬膜外麻酔

背中から硬膜外腔にカテーテルを留置し、局所麻酔薬などを持続で流す方法です。

胸やお腹の大きな手術で、強い効果を発揮します。仕組みや手技、カテーテルを抜くタイミングは【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかに詳しく書きました。

  • 胸部や腹部の大きな手術に向く
  • 術後も持続で使える
  • 抗血栓薬の内服で留置できないことがある
  • 血液検査で凝固の異常があると留置できないことがある

効果が強い一方で、カテーテルを留置できない患者がいることも覚えておいてください。

IV-PCA

IV-PCAは、経静脈的自己調節鎮痛(intravenous patient-controlled analgesia)の略です。

静脈からオピオイドなどを流し、痛いときに患者がボタンを押すと、決められた量が追加で入ります。押しすぎても一定時間は追加されない設定になっているため、患者自身が痛みに合わせて調節できます。

  • 痛いときに患者がボタンを押す
  • 一定時間は追加されない設定がある
  • 硬膜外カテーテルを留置できない患者でも使える

患者が自分で調節できることが、この方法のいちばんの特徴です。

神経ブロックと創部浸潤

手術する部位の神経の近くに、局所麻酔薬を投与する方法です。

超音波で神経や筋膜を見ながら行います。腹部なら腹横筋膜面ブロックや腹直筋鞘ブロック、四肢なら腕神経叢ブロックや大腿神経ブロックなどがあります。外科医が手術の終わりに、創部へ局所麻酔薬を浸潤させることもあります。

  • 超音波を見ながら行う
  • 手術の部位に合わせて選ぶ
  • 外科医が創部に浸潤させることもある

部位を絞って効かせられるので、硬膜外カテーテルを留置できないときの選択肢にもなります。神経ブロックは局所麻酔薬の量が多くなりやすいので、中毒への備えも欠かせません。ブロックの種類や選び方は【末梢神経ブロックとは】硬膜外麻酔と何が違いどんなときに選ぶのかに、中毒への対応は【局所麻酔薬中毒の対応】研修医が押さえる症状と最初にやることにまとめました。

手術に合わせた組み合わせ

手術に合わせた組み合わせを表すバナー画像

組み合わせの基本形は、土台の鎮痛薬に手術に合わせた方法を足し、足りない分をレスキューで補うという形です。ここからは、筆者の考え方を書きます。施設によって違う部分もありますので、自分の施設のやり方と見比べながら読んでください。開腹手術なら、筆者は硬膜外麻酔を第一選択にしています。

開腹手術は硬膜外麻酔が第一選択

開腹手術では、筆者は硬膜外麻酔を第一選択にしています。

傷が大きく、術後の痛みが強い手術だからです。硬膜外麻酔に、アセトアミノフェンかNSAIDsの土台を組み合わせます。

  • 硬膜外麻酔
  • アセトアミノフェンかNSAIDsのどちらか
  • 足りない分のレスキュー

痛みが強い手術ほど、硬膜外麻酔の効果がはっきり出ます。

硬膜外カテーテルを留置できないとき

抗血栓薬を内服している患者や、凝固の異常がある患者では、硬膜外カテーテルを留置できないことがあります。

判断の目安は、日本ペインクリニック学会・日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会の合同ガイドラインにまとめられています(出典:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン)。硬膜外カテーテルを留置できなければ、IV-PCAや神経ブロックで代わりを組み立てます。

  • IV-PCAで代わりを作る
  • 神経ブロックで部位を絞る
  • 土台の鎮痛薬はそのまま使う

硬膜外カテーテルを留置できなくても、土台と組み合わせで鎮痛は作れます。

組み合わせを3段で考える

迷ったら、3段に分けて考えてみてください。

1段目が土台の鎮痛薬、2段目が手術に合わせた方法、3段目がレスキューです。どの手術でもこの形に当てはめると、計画が読みやすくなります。

  • 1段目 アセトアミノフェンかNSAIDs
  • 2段目 硬膜外麻酔やIV-PCAや神経ブロック
  • 3段目 足りない分のレスキュー

指導医の計画も、この3段で見ると理由が見えてきます。

決め方に迷ったときの調べ方

術後鎮痛の決め方に迷ったときの調べ方を表すバナー画像

それでも、目の前の手術に何を選べばよいか迷うことはあります。そのとき筆者が研修医に伝えているのは、2つの調べ方です。過去の同じような症例の麻酔記録を見ること、そしてPROSPECTを見ることです。自分の施設のやり方と、根拠になる推奨の両方を見ます。

過去の同じような症例の麻酔記録

まず、自分の施設の過去の麻酔記録を見てみてください。

同じ術式で、同じような患者の記録を探すと、その施設でどんな術後鎮痛が選ばれてきたかが分かります。術後鎮痛は施設によって違うので、自分の施設のやり方を知ることが近道です。

  • 同じ術式の記録を探す
  • 年齢や既往が近い患者を選ぶ
  • 選ばれた鎮痛方法を見比べる

施設のやり方は、過去の麻酔記録にいちばん正直に残っています。

PROSPECTで術式ごとの推奨を見る

次に、PROSPECTを見てみてください。

PROSPECTは、欧州区域麻酔学会のワーキンググループがまとめている術後鎮痛の推奨です。術式ごとに、術前・術中・術後に何をするかが整理されています(出典:欧州区域麻酔学会 PROSPECT)。

日本麻酔科学会には、現時点で術後鎮痛そのものを扱うガイドラインがありません。そのため筆者は、根拠を確かめる資料としてPROSPECTを参考にしています。研修医にも、参考程度に見てみてと伝えています。

  • 術式ごとに推奨がある
  • 術前・術中・術後に分けて整理されている
  • 要約のページから読める

施設のやり方の理由を確かめるときの、参考になります。

海外の推奨をそのまま使わない

PROSPECTは、欧州の推奨です。

日本では使える薬や保険の事情が違う部分もあります。たとえばPROSPECTではオピオイドを術後のレスキューに回すとされていますが、日本の現場ではそうした使い方はあまり多くありません。そのまま当てはめるのではなく、考え方の参考にするのがよい使い方だと思います。

施設のやり方とPROSPECTを見比べて、違いがあれば指導医に聞いてみてください。

術後鎮痛で気をつける副作用

術後鎮痛で気をつける副作用を表すバナー画像

鎮痛の方法には、それぞれ副作用があります。日本麻酔科学会の医薬品ガイドラインは、オピオイドには嘔気、便秘、眠気、呼吸抑制などの副作用があり、非オピオイドには消化管・腎障害や抗血液凝固作用をもつものが多いと整理しています(出典:日本麻酔科学会 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版 鎮痛薬・拮抗薬)。方法を選ぶときは、副作用も一緒に考えます。

オピオイドの副作用

オピオイドでいちばん気をつけるのは、呼吸抑制です。

IV-PCAや持続投与でオピオイドを使うときは、呼吸数や意識レベルの変化に注意します。悪心嘔吐やかゆみ、尿が出にくくなることもあります。術後悪心嘔吐については【全身麻酔の合併症】研修医が術前説明で押さえる頻度と対策にまとめました。

  • 呼吸抑制
  • 悪心嘔吐
  • かゆみや尿閉、便秘

眠そうにしている患者では、呼吸の回数も確かめてください。

NSAIDsの副作用

NSAIDsでは、腎機能と出血に注意します。

消化管障害や腎障害に加えて、血液を固まりにくくする作用をもつものが多いと整理されています(出典:日本麻酔科学会 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版 鎮痛薬・拮抗薬)。腎機能が落ちている患者や、出血の多い手術では使い方を考えます。

  • 消化管障害
  • 腎障害
  • 出血しやすくなる作用

禁忌に当たらなくても、患者の状態によって使い方を変えます。

硬膜外麻酔の副作用

硬膜外麻酔では、血圧低下と硬膜外血腫に注意します。

局所麻酔薬で交感神経が遮断されると、血圧が下がることがあります。まれですが重い合併症が硬膜外血腫で、抗血栓薬との関係が重要になります。詳しくは【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかにまとめました。

カテーテルを抜くタイミングも、抗血栓薬の再開と合わせて考えます。

術後鎮痛に関するよくある質問

術後鎮痛に関するよくある質問を表すバナー画像

研修医からよく出る質問をまとめました。術後鎮痛は施設ごとの違いが大きいので、最終的には自分の施設のやり方と指導医の方針を確認してください。迷ったら、過去の麻酔記録とPROSPECTを見比べるのが近道です。

術後鎮痛の計画はいつ立てますか

術前、麻酔計画を立てるときに一緒に決めます。硬膜外カテーテルの留置や神経ブロックは麻酔導入の前後に行うことが多いため、手術が終わってからでは間に合いません。手術が始まる前に決めておくものです。

NSAIDsが使えない患者ではどうしますか

アセトアミノフェンを土台にします。どちらかが使えれば、組み立ての形は変わりません。土台は、使えるほうを選べば大丈夫です。

IV-PCAは押しすぎても大丈夫ですか

押しすぎても一定時間は追加で入らない設定になっています。ただし、オピオイドの副作用がなくなるわけではありません。安全装置はありますが、呼吸と意識の観察は続けます。

神経ブロックは誰が行いますか

施設によって違います。多くの施設では麻酔科医が行いますが、創部への浸潤は外科医が行うこともあります。自分の施設で誰が担当しているかを確認しておきましょう。

PROSPECTは日本語で読めますか

PROSPECTは英語です。ただ、術式ごとに要約のページがあり、術前・術中・術後に何をするかが短くまとまっています(出典:欧州区域麻酔学会 PROSPECT)。要約だけでも、組み立ての考え方はつかめます。

研修医がまず覚えることは何ですか

土台になるアセトアミノフェンとNSAIDsと、その禁忌です。そのうえで、3段で組み立てる考え方を覚えておけば、指導医の計画が読めるようになります。土台の2つを覚えるところから始めてください。

まとめ 術後鎮痛の方法

術後鎮痛の方法のまとめを表すバナー画像

術後鎮痛は、土台の鎮痛薬、手術に合わせた方法、レスキューの3段で組み立てます。筆者は禁忌がなければアセトアミノフェンかNSAIDsのどちらかを必ず使い、開腹手術なら硬膜外麻酔を第一選択にしています。決め方に迷ったら、過去の麻酔記録とPROSPECTを見てください。

この記事の振り返り
  • 土台はアセトアミノフェンかNSAIDs
  • 海外の推奨は日本の現場と見比べる
  • 開腹手術は硬膜外麻酔が第一選択
  • 迷ったら過去の麻酔記録を見る
  • 術式ごとの推奨はPROSPECTで確認

次の症例では、術後鎮痛の計画を3段に分けて読んでみてください。理由が見えてくると、計画を立てる側にも回れます。

当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。硬膜外麻酔の仕組みは【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかに、術前に確認する項目は【術前評価のポイント】麻酔科医が手術前日までに見る項目にまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。

コメント