本記事にはプロモーションを含みます

【迅速導入の手順】研修医が知りたい通常の導入との違いと怖さ

迅速導入の目的が誤嚥を防ぐことであり前酸素化から挿管までの流れを示すアイキャッチ画像 気道管理

夜の緊急手術。腸閉塞の患者で、上級医から「迅速導入でいくよ」と言われた。いつもの導入と何が違うのか、なぜ急ぐのか、はっきり分からないまま準備を手伝っている。迅速導入は、研修医が名前は知っていても、中身をつかみにくい手技の一つです。

こんな疑問はありませんか
  • 通常の導入と何が違うのか分からない
  • なぜいつも迅速導入にしないのか知りたい
  • 迅速導入の何が怖いのか分からない
  • 輪状軟骨圧迫を必ずするのか迷う

迅速導入は、誤嚥を防ぐために、あえて急いで気管挿管まで進む導入です。急ぐ代わりに、いつもの導入にある安全を一つ手放しています。それが何かを知ることが、迅速導入を理解する近道です。

迅速導入の意味が分からない研修医のアイコン
研修医

迅速導入のほうが早く挿管できるなら、いつもそうすればいいのではないですか。

現役麻酔科医のアイコン
麻酔科医

迅速導入は、安全を一つ手放して誤嚥を防ぐ方法です。何を手放しているのかを知ると、怖さが分かりますよ。

この記事では、迅速導入とは何か、通常の導入との違い、迅速導入が怖い理由、実際の手順、輪状軟骨圧迫の考え方、そして挿管できなかったときの動き方を整理します。

迅速導入とは

迅速導入とは何かを表すバナー画像

迅速導入は、英語でrapid sequence inductionと呼ばれる麻酔の導入方法です。胃の中に食べ物や液体が残っている可能性が高い患者で、胃の内容物が逆流して肺に入る誤嚥を防ぐために行います。眠ってから気管チューブで気道を守るまでの時間を、できるだけ短くするのが目的です。迅速導入の目的は、速さそのものではなく誤嚥を防ぐことです。

誤嚥を防ぐための導入

麻酔で眠ると、のどの反射が弱まり、胃の内容物が逆流しても咳き込んで出すことができなくなります。

気管チューブのカフで気道がふさがれるまでの間は、気道が守られていない時間です。この無防備な時間を短くするために、迅速導入では手順を詰めて進めます。

迅速導入を選ぶ患者

迅速導入を選ぶのは、胃の中が空になっていない可能性が高い患者です。いわゆるフルストマックと呼ばれる状態です。

  • 絶飲食の時間が守られていない緊急手術
  • 腸閉塞など、腸の流れが止まっている患者
  • 帝王切開など、妊娠後期の患者
  • 胃食道逆流が強い患者
  • 外傷や強い痛みで胃の動きが落ちている患者

迷うときは、上級医に相談して決めます。絶飲食の時間だけでなく、胃の中が空になる状態かどうかで考えます。ガイドラインの絶飲食の時間は、【術前絶飲食】研修医が押さえる時間の目安と守れなかったときの判断にまとめました。

どの科でも出会う導入

迅速導入は、麻酔科だけの手技ではありません。救急外来や集中治療室での緊急の気管挿管も、多くは迅速導入の考え方で行われます。

麻酔科で迅速導入を理解しておくと、救急や集中治療の場面でも役に立ちます。どの科に進んでも出会う可能性がある、大切な導入方法です。

通常の導入との違い

迅速導入と通常の導入との違いを表すバナー画像

迅速導入を理解するには、まず通常の導入で何をしているかを知ることが大切です。通常の導入では、鎮静薬で眠らせたあと、マスク換気ができることを確かめてから筋弛緩薬を投与します。迅速導入では、この確認の手順を省いて、薬を続けて投与します。違いは、マスク換気を確かめる手順があるかどうかです。

通常の導入はマスク換気を確かめてから

通常の導入では、鎮静薬で眠ったあと、マスク換気で胸が上がり、EtCO2の波形が出ることを確かめます。

換気できることを確かめてから筋弛緩薬を投与し、効いてくるまでの間もマスク換気を続けます。いつでも換気できる状態を保ちながら進むのが、通常の導入です。流れは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことで解説しました。

迅速導入は薬を続けて投与する

迅速導入では、鎮静薬に続けてすぐに筋弛緩薬を投与し、効いたらすぐに挿管します。

  • 前酸素化を十分に行う
  • 鎮静薬と筋弛緩薬を続けて投与する
  • 原則としてマスク換気をせずに待つ
  • 筋弛緩が効いたらすぐに挿管する

挿管して換気を始めるまでは、換気をせずに待つ時間になります。眠ってから挿管まで、ひと続きで進むのが迅速導入です。

マスク換気をしない理由

マスク換気をすると、送った空気の一部が食道から胃に入ることがあります。胃がふくらむと、胃の内容物が逆流しやすくなります。

フルストマックの患者では、この逆流が誤嚥につながります。マスク換気で胃をふくらませないことが、迅速導入でマスク換気を控える理由です。

マスク換気を控える理由は、誤嚥だけではありません。新型コロナウイルス感染症が流行したときには、マスクのすき間から漏れた呼気で、ウイルスを含む飛沫が周りに広がることが心配されました。日本麻酔科学会は2020年3月、COVID-19の患者や疑いのある患者では、咳を誘発しないよう筋弛緩薬を用いた迅速導入が望ましいとしています(出典:日本麻酔科学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(疑い、診断済み)患者の麻酔管理、気管挿管について」)。同じ文書では、症状のない感染者も日々の症例にいると考えるべき状況だとされ、施設によっては多くの症例で迅速導入が行われました。

普段は迅速導入にしない理由

迅速導入のほうが早く挿管まで進めるなら、いつもそうすればよいと思うかもしれません。

しかし、通常の導入でマスク換気を確かめるのは、換気ができない患者を、筋弛緩薬を投与する前に見つけるためです。換気も挿管もできない患者に筋弛緩薬を投与してしまうと、命に関わります。通常の導入は、確かめながら進むことで安全を守っています。誤嚥の危険が高いときだけ、その確認を手放して迅速導入を選ぶのです。

迅速導入が怖い理由

迅速導入が怖い理由を表すバナー画像

迅速導入は、手順だけを見ると難しくありません。それでも麻酔科医が迅速導入を緊張して行うのは、通常の導入にある安全の余裕がないからです。筆者が研修医にいちばん理解してほしいのは、手順よりもこの怖さです。怖さを知っていれば、準備の大切さも自然に分かります。

換気をしない時間がある

迅速導入では、眠ってから挿管して換気を始めるまで、原則としてマスク換気をしません。その間、体に届く酸素は、前酸素化で肺の中に取り込んでおいた酸素だけになります。

挿管に時間がかかると、SpO2が下がり始めます。肥満の患者や妊婦、重症の患者では、下がるまでの時間が短くなります。換気をせずに待てる時間は、前酸素化をどれだけしっかり行えたかで決まります。

筋弛緩薬を投与したら後戻りしにくい

迅速導入では、マスク換気ができるかを確かめる前に筋弛緩薬を投与します。

投与したあとで換気も挿管も難しいと分かっても、自分で呼吸を再開するまでには時間がかかります。筋弛緩薬を投与した時点で、挿管まで進むしかない状況になります。

挿管に失敗したときの選択肢が少ない

通常の導入なら、挿管がうまくいかなくても、マスク換気を続けながらやり直せます。

迅速導入では、マスク換気をすると誤嚥の危険があり、やり直しの余裕も少なくなります。1回目の挿管で決めるための準備が、何より大切になります。

血圧が下がりやすい

迅速導入を行う患者は、緊急手術で脱水や出血があることも少なくありません。

そこに鎮静薬を続けて投与するため、導入直後に血圧が大きく下がることがあります。迅速導入では、気道と同時に循環にも備えておきます。血圧が下がったときの考え方は【術中の血圧低下の対応】研修医が最初に確かめる順番と昇圧薬の基本にまとめました。

迅速導入の手順

迅速導入の手順を表すバナー画像

迅速導入の手順は、準備、前酸素化、薬の投与、挿管の確認の順に進みます。実際の薬の種類や量は施設や患者によって違うので、上級医の指示に従ってください。ここでは、研修医が知っておきたい流れと考え方を整理します。手順の中で、研修医にまず大切にしてほしいのは前酸素化です。

始める前に準備をそろえる

迅速導入では、始めてから物を探す余裕はありません。始める前に、次のものをそろえて手の届く場所に置きます。

  • 太い吸引管と吸引の確認
  • 喉頭鏡とビデオ喉頭鏡
  • 気管チューブとスタイレット、1サイズ細いチューブ
  • ブジー
  • 声門上器具
  • 昇圧薬

人手も先に集めておきます。挿管がうまくいかなかったときの次の手まで、始める前に決めておきます。

前酸素化をしっかり行う

前酸素化は、導入の前に100%酸素を吸ってもらい、肺の中の空気を酸素に置き換えておくことです。迅速導入では、これがそのまま酸素の残り時間になります。

マスクを顔にしっかり密着させ、すき間から空気が漏れないようにします。筆者は研修医に、可能なかぎり前酸素化をしっかり行うように伝えています。頭を少し高くした姿勢にすると、前酸素化もしやすく、逆流もしにくくなります。

薬を続けて投与する

前酸素化が終わったら、鎮静薬と筋弛緩薬を続けて投与します。

筋弛緩が効くまでの間は、マスクを顔に当てて酸素を流したまま待ちます。浅い麻酔や不十分な筋弛緩のまま挿管しないことが大切です。ガイドラインも、胃の内容物の逆流や誤嚥を起こす可能性があるとして、これを避けるよう求めています(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

挿管したらすぐに確かめる

挿管したら、カフを膨らませ、EtCO2の波形が続けて出ることを確かめます。

カフが膨らむまでは、気道はまだ守られていません。波形でチューブの位置を確かめてから、はじめて安心できます。挿管のコツは【気管挿管のコツ】声門が見えないときに見直す順番にまとめました。

輪状軟骨圧迫の考え方

輪状軟骨圧迫の考え方を表すバナー画像

迅速導入の手順として、輪状軟骨圧迫を習うことがあります。のどの輪状軟骨を後ろに押して、食道をふさぎ、逆流を防ぐという考え方です。ただし、その効果には議論があり、行うかどうかは施設や麻酔科医によって違います。輪状軟骨圧迫は、迅速導入に必ず含まれる手順ではありません。

輪状軟骨圧迫とは

輪状軟骨圧迫は、介助者が患者の首の前にある輪状軟骨を指で後ろに押す方法です。セリック法とも呼ばれます。

食道を背骨との間で押しつぶして、胃の内容物がのどまで上がってくるのを防ぐことを狙っています。押す位置や強さが適切でないと、狙った効果は得られません。

ガイドラインの記載

気道管理ガイドライン2014は、輪状軟骨圧迫をしても誤嚥予防に効果がない患者がいること、気道の通りを悪くしたり、喉頭鏡での視野を悪くしたりすることもあると述べています(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

一方で、迅速導入で挿管に失敗した場合には、適切な輪状軟骨圧迫をしながら、比較的低い圧でマスク換気を始めるべきだとしています。効果には限界があり、挿管の妨げになることもあると知っておきます。

筆者は必ずしも行わない

筆者自身は、迅速導入で輪状軟骨圧迫を必ず行うわけではありません。少なくとも、ふだんはあまり行っていません。

行うかどうかは、施設の方針や上級医の考え方によって違います。ローテート先では、輪状軟骨圧迫をするかどうかを始める前に確かめておきます。

挿管できなかったときの動き方

迅速導入で挿管できなかったときの動き方を表すバナー画像

迅速導入でいちばん避けたいのは、挿管も換気もできない状態です。うまくいかなかったときの動き方を先に知っておけば、慌てずに次の手に移れます。ここでは気道管理ガイドラインの考え方に沿って整理します。挿管できなかったら、まず換気を確保することを優先します。

すぐに声を出して人を呼ぶ

1回目で挿管できなかったら、すぐに周りに伝えて人を呼びます。

迅速導入では、時間がたつほどSpO2が下がっていきます。一人で何度も挑戦するより、早く人を集めるほうが安全です。

低い圧でマスク換気をする

ガイドラインは、迅速導入で挿管に失敗した場合、輪状軟骨圧迫をしながら比較的低い圧でフェイスマスク換気を始めるべきだとしています(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

誤嚥は怖いですが、低酸素血症のほうが先に命に関わります。低い圧でマスク換気を続けながら、次の手を考えます。マスク換気のコツは【マスク換気のコツ】研修医が押さえる持ち方と見直す順番で解説しました。

やり直しは方法を変えて

マスク換気でSpO2が保てたら、挿管をやり直すかどうかを判断します。

  • ビデオ喉頭鏡に替える
  • ブジーを使う
  • より細い気管チューブにする
  • 挿管する人を上級医に交代する

ガイドラインは、同じ人による操作や同じ器具を使った操作を3回以上繰り返すことは避けるべきだとしています(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。同じ方法を繰り返さず、方法か人を変えてやり直します。

換気も難しければ声門上器具

マスク換気でも十分に換気できないときは、声門上器具を使って換気を試みます。ガイドラインでは、この段階をイエローゾーンと呼んでいます。

それでも換気できなければ、外科的な気道確保が必要になる状態です。ここまでの流れを、迅速導入を始める前にチームで共有しておきます。声門上器具については【ラリンジアルマスクの挿入】研修医が押さえるサイズ選びと手順にまとめました。

迅速導入のよくある質問

迅速導入のよくある質問を表すバナー画像

研修医からよく出る質問をまとめました。迅速導入のやり方は施設や上級医によって違うところがあるので、最終的には上級医の指示に従ってください。迷ったら、前酸素化と準備に時間をかけることから始めます。

前酸素化はどのくらい行いますか

マスクをしっかり密着させて、数分間かけて行うのが基本です。麻酔器で呼気の酸素濃度を確かめられる施設もあります。時間よりも、マスクがすき間なく当たっているかが大切です。

マスク換気は絶対にしてはいけませんか

原則として行いません。ただし、挿管に失敗してSpO2が下がってきたときは、ガイドラインに沿って比較的低い圧でマスク換気を始めます。誤嚥を恐れて低酸素血症を見過ごさないことが大切です。

筋弛緩薬は何を使いますか

最近はロクロニウムが主流です。教科書には、効き始めの早いスキサメトニウムが書かれていることもあります。どの薬をどの量で使うかは、施設の手順と上級医の指示に従ってください。

胃管が入っている患者はどうしますか

腸閉塞などで胃管が入っている患者では、導入の前に吸引して胃の中を減らしておくことがあります。胃管を抜くか残すかは、施設や上級医の考え方で違います。

予定手術でも迅速導入をすることはありますか

あります。胃食道逆流が強い患者や、胃の動きが落ちている患者では、予定手術でも迅速導入を選ぶことがあります。予定手術かどうかではなく、誤嚥の危険で判断します。

研修医が迅速導入で担当することは何ですか

前酸素化のマスク保持、準備物の確認、吸引の準備などを任されることが多いでしょう。迅速導入でも、研修医の前酸素化がそのまま患者の安全につながります。

まとめ 迅速導入の手順

迅速導入の手順のまとめを表すバナー画像

迅速導入は、フルストマックの患者で誤嚥を防ぐための導入です。通常の導入ではマスク換気を確かめてから筋弛緩薬を投与しますが、迅速導入ではその確認を手放し、薬を続けて投与して挿管まで進みます。そのため、換気をしない時間があり、筋弛緩薬を投与したら後戻りしにくいという怖さがあります。だからこそ、前酸素化と準備に時間をかけ、挿管できなかったときの次の手まで決めてから始めます。

この記事の振り返り
  • 迅速導入の目的は誤嚥を防ぐこと
  • 通常の導入との違いはマスク換気の確認
  • 換気をしない時間があるのが怖さ
  • 前酸素化をしっかり行う
  • 挿管できなければ低い圧で換気して人を呼ぶ

次に迅速導入に立ち会うときは、前酸素化のマスクをすき間なく当てることから意識してみてください。その数分が、挿管までの余裕になります。

当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。通常の導入の流れは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことに、気管挿管のコツは【気管挿管のコツ】声門が見えないときに見直す順番にまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。

コメント