入れようとしたら途中で止まる。奥まで進まない。入ったのに換気が漏れる。ラリンジアルマスクは簡単そうに見えて、研修医がつまずきやすい手技です。
- 途中で引っかかって進まない
- 入れたのにリークする
- サイズの決め方が分からない
- 入れ直すか迷う
うまく入らないときの原因は、だいたい決まっています。力を強める前に、麻酔の深さとサイズと頭の位置を疑ってください。

途中で引っかかって、奥まで入らないことがあります。

力で押し込む前に、麻酔の深さと頭の位置を疑ってみてください。そこで入ることが多いですよ。
この記事では、声門上器具が選ばれる場面から、体重をもとにしたサイズの選び方、挿入の手順、そして入らないときの見直し方までを整理します。製品ごとに体重の目安が違う点にも触れました。
声門上器具が選ばれる場面

ラリンジアルマスクは、声門の上に置いて気道を確保する器具です。まとめて声門上器具と呼ばれます。気管にチューブを入れずに気道を保てることが、この器具の最大の利点です。まずは、どんな場面で選ばれるのかを整理しておきましょう。
予定手術での使用
短時間で、体位の変化が少ない手術では、はじめから声門上器具を選ぶことがあります。
気管挿管に比べて、のどへの刺激が少なく、咽頭痛や嗄声が起こりにくいという利点があります。筋弛緩薬を使わずに管理できる症例もあります。
- 短時間で終わる手術
- 体位の変化が少ない手術
- 強い筋弛緩を必要としない手術
気管挿管による合併症を避けられることが、選ぶ理由の1つになります。術後の咽頭痛や嗄声については【全身麻酔の合併症】研修医が術前説明で押さえる頻度と対策にまとめました。
マスク換気の次の一手
マスク換気がうまくいかないときの、次の手段でもあります。
ガイドラインでは、フェイスマスクで換気ができない状態を次の領域へ移る合図としており、声門上器具は準備ができしだい遅れずに入れるべきものとされています。
マスク換気そのものの手技は【マスク換気のコツ】研修医が押さえる持ち方と見直す順番にまとめました。困ってから探すのではなく、最初から手の届く場所に置いておいてください(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。
気管挿管を選ぶべき場面
一方で、声門上器具を避けたほうがよい場面もあります。
LMAプロシールの添付文書では、気道内圧が上がると予想される患者が禁忌として挙げられています。胸郭や肺のコンプライアンスが低い、気道抵抗が高い、最大吸気圧が30cmH2Oを上回ると予測される、といった条件です。i-gelの添付文書にも、最高気道内圧が40cmH2Oを超えないことを確認するようにと書かれています。
- 絶食が守られていない状態
- 高い気道内圧が必要な手術
- 胸郭や肺のコンプライアンスの低下
- 気道抵抗が高い状態
迷ったときは、気道を確実に守れる気管挿管を選びます(出典:LMAプロシール 添付文書、インターサージカル i-gel 添付文書)。
ラリンジアルマスクのサイズ選び

サイズが合っていないと、どれだけ丁寧に入れても漏れます。サイズは体重を目安に決めるのが基本です。ただし製品によって区切りが違うため、使うものの添付文書を確認してください。
体重をもとにしたサイズ
カフのある製品では、体重ごとにサイズが決まっています。
LMAプロシールでは、成人で30から50kgがサイズ3、50から70kgがサイズ4、70から100kgがサイズ5とされています。小児ではさらに細かく分かれています。
- 30〜50kgのサイズ3
- 50〜70kgのサイズ4
- 70〜100kgのサイズ5
- さらに細かく分かれる小児のサイズ
迷ったら、体格と口の開き具合を見て指導医に確認してください(出典:LMAプロシール 添付文書)。
製品による違い
カフのない製品では、体重の区切りが変わります。
i-gelでは、30から60kgがサイズ3、50から90kgがサイズ4、90kgを超えるとサイズ5とされています。カフのある製品とは区切りが重なっておらず、同じ体重でも選ぶサイズが変わります。添付文書にも、体重はあくまで目安であり、実際には患者の体型も考慮して選ぶようにと書かれています。
- カフで密着させる製品
- カフのないゲル状の製品
- 胃管を通せる第2世代の製品
製品が変わったら、思い込みで選ばずに表を確認してください(出典:インターサージカル i-gel 添付文書)。
カフと準備の確認
使う前に、器具そのものを点検します。
カフのある製品では、挿入前にカフの空気を完全に抜きます。カフ先端のめくれを防ぐため、背面の先端部に水溶性の潤滑剤を塗っておきます。i-gelのようにカフのない製品でも、背面から側面まで潤滑剤を塗ってから挿入します。
- 破損や異物がないかの目視
- カフの膨らみ方の確認
- 完全な脱気
- 背面への潤滑剤
カフ内圧の上限と最大の空気注入量は製品ごとに決められており、超えてはいけません(出典:LMAプロシール 添付文書)。
ラリンジアルマスクの挿入手順

準備ができたら挿入に移ります。手順そのものは短いですが、始める前の条件が整っているかが結果を分けます。入れる前に、麻酔が十分に深いかを必ず確かめてください。順に見ていきましょう。
麻酔の深さの確認
浅い麻酔で入れようとすると、まず入りません。
i-gelの添付文書にも、使用する際には麻酔の効果を確認することと書かれています。麻酔が不十分だと、咳嗽や発作性の呼吸困難、咽頭痙攣を引き起こすことがあるためです。
- 呼びかけへの反応の消失
- 下顎の力が抜けていること
- 咳や体動がないこと
入らないと感じたときに、最初に疑うのが麻酔の深さです(出典:インターサージカル i-gel 添付文書)。
頭位と入れ方
頭を少し後ろに倒し、口を開けた姿勢を作ります。
LMAプロシールの添付文書では、人差し指をストラップに差し込んでペンのように持ち、カフを硬口蓋に押し付けながら滑らせ、抵抗を感じるまで進める方法が示されています。押し込むのではなく、上顎の形に沿って滑らせる意識です。
- 上顎に沿わせる背面
- 滑らせる動き
- 抵抗を感じたところで停止
下に押しつけると舌を巻き込み、途中で止まります(出典:LMAプロシール 添付文書)。
カフの膨らませ方
カフのある製品では、挿入後に空気を入れます。
製品ごとに最大の注入量が決まっており、それを超えないようにします。入れすぎるとカフ圧が高くなり、粘膜への負担が増えます。カフ圧計を使える環境であれば、測って確かめます。
空気は入れるほど密着するわけではなく、入れすぎは逆効果です。
位置の確認
入れ終わったら、正しい位置にあるかを確かめます。
胸の上がり方、呼気の二酸化炭素の波形、リーク音の有無を見ます。胃管を通せる製品であれば、チューブが問題なく入るかどうかも位置の手がかりになります。
- 繰り返し出る二酸化炭素の波形
- 左右差のない呼吸音
- 漏れの音がないこと
- 固定したあとの深さ
波形が続けて出るまでは、入ったと判断しないでください。
うまく入らないときの見直し

途中で止まる、奥まで進まない、入ったのに漏れる。研修医がつまずくのは、だいたいこの3つです。力を強めるのではなく、条件のほうを変えていきます。順に見直していきましょう。
麻酔が浅い
最初に疑うのは、やはり麻酔の深さです。
口が開かない、途中で力が入る、咳き込む。こうしたときは、器具ではなく麻酔のほうに原因があります。無理に進めると、喉頭痙攣を招くこともあります。
- 開かない口
- 途中で入る力
- 咳き込みや体動
入らないときは、器具を替える前に麻酔を深くできないかを考えてください。
頭位が合っていない
頭の位置が変わっているだけで、進み方は大きく変わります。
顎が引けていると通り道が曲がり、器具の先が引っかかります。頭を後ろに倒し直し、開口を助けてもらうだけで入ることもあります。
入らないと感じたら、いったん抜いて頭位を作り直してください。
舌を押し込んでいる
よくあるのが、舌を巻き込んだまま押し込んでいる状態です。
器具を下向きに押すと、舌が奥へ送られて通り道をふさぎます。上顎に沿わせる角度に戻すか、指で舌を避けてから入れ直します。
- 下向きに押している角度
- 巻き込まれた舌
- 上顎から離れた背面
進まないときは、角度を上顎側へ戻してみてください。
サイズが合っていない
サイズが合っていないと、入っても漏れます。
小さすぎれば密着せず、大きすぎれば奥まで進みません。添付文書にも、体重はあくまで目安であり、患者の体型も考慮して選ぶようにと書かれています。
2回試して同じところで止まるなら、サイズを変えることを考えます(出典:インターサージカル i-gel 添付文書)。
入れ直しの判断
同じやり方を繰り返しても、結果は変わりません。
条件を1つ変えてから入れ直します。麻酔を深くする、頭位を作り直す、サイズを変える。それでも入らなければ、マスク換気に戻って酸素化を保ちながら次の手を考えます。
- 深さを変える
- 頭位を変える
- サイズを変える
- マスク換気に戻る
酸素化が保てているかが、繰り返してよいかどうかの判断基準です。気管挿管に切り替える場合の動き方は【気管挿管のコツ】声門が見えないときに見直す順番にまとめました。
入れたあとの注意点

入ってしまえば終わりではありません。手術中の体位や操作で、位置は簡単に変わります。入れたあとも、換気が保てているかを見続けてください。
位置のずれ
体位を変えたあとは、必ず換気を確認し直します。
頭や首を動かすと、器具の位置や角度が変わります。急にリークが増えたり、気道内圧が上がったりしたときは、位置のずれを疑います。
- 体位変換の前後
- 頭や首を動かしたあと
- 術中に増えたリーク
波形と気道内圧の変化が、ずれに気づく手がかりになります。
誤嚥のリスク
声門上器具は、気管にチューブを入れる方法ほど気道を守れません。
i-gelの添付文書では、絶食している患者の麻酔時に使うものとされています。胃管を通せる製品であっても、絶食が守られていない場合や逆流しやすい条件では選びません。
気道を確実に守る必要がある症例では、最初から気管挿管を選びます(出典:インターサージカル i-gel 添付文書)。
抜くときの注意
抜くタイミングにも判断が要ります。
十分に覚醒してから抜くか、深い麻酔のまま抜くかは、施設や症例によって考え方が分かれます。どちらの場合も、抜いたあとに気道が保てるかを見届けます。
- 覚醒の程度の確認
- 分泌物の吸引
- 抜いたあとの気道の確認
抜いたあとにこそ、気道が塞がることがあります。
ラリンジアルマスクのよくある質問

ラリンジアルマスクについて、研修医からよく受ける質問をまとめました。使う製品や運用は施設によって違うため、指導医に確認しながら進めてください。
カフのある製品とない製品の違い
LMAプロシールのようなカフのある製品は空気で膨らませて密着させ、i-gelのようなカフのない製品は体温でなじませて密着させます。体重ごとのサイズの区切りが製品によって違うため、思い込みで選ばないでください。どちらにも胃管を通せるタイプがあります。
筋弛緩薬は必要か
声門上器具の挿入自体に、筋弛緩薬は必須ではありません。十分な麻酔深度があれば入ります。入らないときに足りないのは、筋弛緩より麻酔の深さであることが多いです。手術の内容によっては、挿入後に筋弛緩薬を使うこともあります。
何回まで入れ直してよいか
回数そのものより、酸素化が保てているかが基準になります。同じ条件のまま繰り返すのが、いちばん避けたい進め方です。1回ごとに条件を1つ変え、それでも入らなければ別の方法に切り替えます。
リークがあるときの対応
まず位置と深さを確認します。カフのある製品では、空気を足すより一度抜いて入れ直すほうが改善することもあります。空気を入れ足してリークを止めようとすると、カフ圧だけが上がります。喉元にタオルを軽く巻いて外から支えると、咽頭との密着が増えてリークが減ることもあります。添付文書に書かれた方法ではありませんが、筆者はやることがあります。強く巻く必要はありません。
腹腔鏡手術で使えるか
気腹によって気道内圧が上がり、胃の内容物が逆流しやすくなります。施設によっては胃管を通せる製品で行うこともありますが、判断が分かれる領域です。自分で判断せず、指導医の方針に従ってください。
研修医がまず練習すること
入れる動作より、入れる前の準備を固めるほうが先です。サイズを選び、点検し、麻酔の深さを確かめる。この3つが整っていれば、挿入そのものは驚くほど簡単に終わります。
まとめ ラリンジアルマスクの挿入

ラリンジアルマスクは、力で押し込む器具ではありません。体重に合ったサイズを選び、麻酔を十分に深くし、上顎に沿わせて滑らせる。入らないときは、深さと頭位とサイズを順に見直します。
- 体重をもとにしたサイズ選び
- 製品ごとに違う体重の区切り
- 最初に疑うべき麻酔の深さ
- 上顎に沿わせて滑らせる動き
- 入れたあとも続く位置の確認
次に入らなかったら、押し込む前に麻酔の深さを確かめてください。そこで解決することが、いちばん多いはずです。
当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。マスク換気は【マスク換気のコツ】研修医が押さえる持ち方と見直す順番に、導入全体の流れは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことにまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。


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