「もう抜いていいですか」と指導医に聞いて、「まだ」と返されたことはありませんか。少し待ってから抜管になりますが、その「まだ」と「いま」が何で分かれているのかは、教わらないまま終わりがちです。手術が終わってから抜管までの数分間、指導医は患者の体がどこまで戻ってきたかを確かめています。何分待てばよいという決まりはなく、確かめる項目が決まっているだけです。
- 抜くタイミングが読めない
- 咳が出たら抜いてよいか迷う
- 指導医が何を見ているか分からない
- 抜管後に息が止まって焦った
判断の軸は、2025年に日本麻酔科学会から出たガイドラインで整理されました。抜管の前に満たすべき条件は、4つに絞られています。

げほげほし始めたので、そろそろ抜いてよいのかと思いました。

それは気管チューブの刺激で出た反射で、自発呼吸とは別のものです。抜く合図ではありませんよ。
この記事では、その4つの条件を1つずつ見ていきます。手順と体位、抜いた直後に見る項目、そして抜管を見送る判断までを整理しました。
抜管でつまずく理由

抜管にかかる時間は数分です。短いのに、ここで呼吸の合併症が起きます。導入は順番どおりに薬を入れれば形になりますが、抜管はそうはいきません。薬が切れる速さ、筋力が戻る速さ、意識が戻る速さは患者ごとに違い、しかも同時には戻らないからです。抜管は手順ではなく、条件で考える必要があります。
導入より読みにくい抜管
導入では、薬の種類と量と順番を自分で決められます。
抜管では決められません。こちらにできるのは、戻ってくるのを待ちながら、何が戻っていて何が戻っていないかを確かめることだけです。
- 薬が切れる速さの個人差
- 筋力と意識が戻る順番の違い
- 手術の内容による体の変化
導入が組み立てる作業なら、抜管は戻ってきたことを確かめる作業です。
咳を合図と誤解する
研修医がいちばん多く間違えるのが、ここです。
麻酔が浅くなると、気管チューブの刺激で咳が出ます。体が動き、バッグも動くので、呼吸が戻ってきたように見えてしまいます。しかしこれは喉への刺激で誘発された反射で、呼吸中枢が自分で動き出したわけではありません。
ガイドラインも、咳反射や息こらえ、喉頭けいれんを、円滑な覚醒を妨げる有害な気道反射として扱っています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 浅い麻酔で出やすい咳反射
- 体動を伴って呼吸に見える動き
- 呼吸中枢とは無関係な反射
げほげほした瞬間は、抜く合図ではないのです。
画一的な方法はないという前提
ガイドラインは冒頭で、覚醒と抜管を安全に実施するための画一的な方法は存在しないと述べています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン(ダイジェスト))。
施設ごとに、指導医ごとにやり方が違うのは、いい加減だからではありません。個々の患者評価をもとに毎回組み立てるものだからです。
- 患者ごとに変わる準備
- 施設ごとに違う術後の体制
- 一律の手順にできない理由
ですから覚えるべきものは手順ではなく、何を確かめるかという項目になります。
抜管前に満たす4つの条件

2025年に日本麻酔科学会が公表した「抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン」では、覚醒と抜管の過程で麻酔科医が手術室を出るまでに達成すべき項目を4つ挙げています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。ガイドラインではこれを4つのMUSTと呼んでいます。抜管の基準を言葉にするなら、出発点はこの4つです。
- 筋収縮の回復
- 自発呼吸の回復
- 従命可能な意識レベル
- 抜管後の上気道維持
4つのMUSTという目標
並べてみると、当たり前のことが書いてあるように見えます。
ただこの4つは、達成できていればよいという確認項目ではありません。達成できていないまま抜管すると何が起きるかが分かっている項目です。筋力が戻っていなければ十分な呼吸ができず、意識が戻っていなければ自分で気道を保てません。
1つでも欠けていれば、抜管後の呼吸器合併症のリスクが高くなると認識すべきだとされています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
達成する順番
4つは同時には戻りません。順番があります。
ガイドラインは、従命可能なレベルまで意識が回復するより前に筋収縮回復薬を投与するとしています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。筋力を先に戻し、そのあとで意識を戻すという順番です。
- 先に筋収縮を回復させる
- 次に自発呼吸の出現を待つ
- 最後に覚醒を促す
意識が戻ってから筋弛緩の回復を考えるのでは、順番が逆になります。
1つでも欠けたとき
抜管の時点で4つそろわないこともあります。
その場合も、手術室を出るまでには達成することが目標になります。達成できないまま退室するなら、どの項目が未達成なのかを術後の管理に関わるスタッフと共有する必要があります(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
伝えないまま退室させることが、いちばん危ない選択です。
筋弛緩からの回復

4つのうちの1つ目です。研修医が「自発呼吸が出たから戻っているだろう」と判断しがちな項目でもあります。ガイドラインは、非脱分極性筋弛緩薬を使ったすべての患者で、四連反応比(train-of-four ratio:TOFR)が90%を超える状態を手術室退室までに達成することを目標としています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。この項目だけは、見た目ではなくモニターで確かめます。
筋弛緩モニターで確認する
筋弛緩の回復は、モニターの数値で判断します。
ガイドラインは、筋弛緩薬を使う症例では全身麻酔の最初から最後まで筋弛緩モニターを装着することを推奨しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。導入のときだけ付けて外す、という使い方ではありません。
- 導入前から装着する
- 抜管前の投与量を決める根拠にする
- 投与したあとも回復を確認する
TOFRが90%を超えているかどうかは、数値でしか分かりません。
咽頭筋は遅れて回復する
なぜ自発呼吸では判断できないのか。筋肉ごとに回復の速さが違うからです。
横隔膜は筋弛緩薬からの回復が早く、のどの奥で気道を支える咽頭筋は遅れて回復します。ガイドラインは、嚥下機能や上気道の開存の回復にはTOFRが90%を超えることが必要だと記載しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 回復が早い横隔膜
- 遅れて回復する咽頭筋
- 息はできても喉が保てない状態
つまり、息はできているのに喉は保てないという状態が存在します。これが抜管直後の上気道閉塞につながります。
呼吸が戻ったことは、喉が保てることの証明にはならないのです。
自発呼吸を根拠にしない
ここはガイドラインに明確に書かれています。
自発呼吸の出現や頭部挙上といった臨床的な評価で筋収縮の回復を判断したり、回復薬の投与量を決めたりしないよう求められています。「自発呼吸が認められたからスガマデクスを投与した」という判断は、避けるべき例として挙げられています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 自発呼吸の出現を根拠にしない
- 頭部挙上などの臨床評価も根拠にしない
- モニターの結果から量を決める
ロクロニウムを使ったならスガマデクスで戻しますが、その量はモニターの結果から決めます。ネオスチグミンを使った場合も、投与後にTOFRが90%を超えたことを筋弛緩モニターで確認します(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
戻す薬の量を決めるのは、呼吸ではなくモニターです。
自発呼吸と覚醒の確認

2つ目と3つ目の条件です。ここが研修医にとって最も分かりにくく、指導医と判断がずれる場所でもあります。胸が動いていれば呼吸が戻ったように見え、目を開ければ覚めたように見えます。どちらも、見えたものと中身が違うことがあります。
自発呼吸と呼吸運動の違い
ガイドラインは、自発呼吸を無意識下での自律的な呼吸中枢活動の継続と定義しています。
そして、呼びかけに応じて行う呼吸運動は自律的な自発呼吸ではないと、はっきり書いています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。「深呼吸してください」と言って胸が動いたのは、指示に従った動作です。呼びかけをやめて患者が再び眠ったら、呼吸は止まるかもしれません。
- 呼びかけなしで続く呼吸
- 指示に応じて行う呼吸運動
- 刺激で誘発された反射
退室前に確かめるのは、こちらが何もしていないときの呼吸です。
咳反射は自発呼吸ではない
冒頭にも書いた、いちばん多い誤解です。
麻酔が浅くなる途中では、咳反射や息こらえが出ます。体動を伴うので呼吸が戻ったように見えますが、気道への刺激で誘発された反射にすぎません。ガイドラインは、同じ麻酔深度と刺激に対して成人では咳反射などの動的な反射が、小児では喉頭けいれんなどの静的な反射が主になると整理しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 成人で出やすい咳反射や体動
- 小児で出やすい喉頭けいれん
- 刺激を減らして待つという対応
反射が出ている段階で抜くと、喉頭けいれんや低酸素につながります。むしろ、反射を起こさないように刺激を減らすのが覚醒の途中でやることです。
咳が出たら抜くのではなく、咳を出させないように待ちます。
覚醒が近いかを読む材料
待つといっても、あてもなく待つわけではありません。
覚醒できる状態かどうかは、吸入麻酔なら呼気の麻酔ガス濃度、静脈麻酔ならTCIの効果部位予測濃度や脳波を使った麻酔深度モニターを参考に判断します(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 吸入麻酔なら呼気の麻酔ガス濃度
- 静脈麻酔なら効果部位の予測濃度
- 脳波を用いた麻酔深度モニター
自発呼吸が出るかどうかには、二酸化炭素の値が関わります。ガイドラインは、オピオイドが残っている全身麻酔の終了時には、呼吸が再開する呼気終末二酸化炭素分圧が50〜70mmHg程度になることも多いと記載しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。換気量を減らしながらこの値を上げ、呼吸が出るのを待つわけです。
数値は答えではなく、そろそろ覚めるはずという予測に使う材料にすぎません。
従命可能の確かめ方
3つ目の条件は、指示に従えることです。
目を開ける、口を開ける、体を動かすといった動作は、自分から起こることもあります。ガイドラインは、体動や自発的な動作だけでは安全な覚醒レベルの達成を意味しないとし、開口の維持、挺舌、離握手といった指示動作で確かめることを推奨しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 口を開けたまま保てるか
- 舌を出せるか
- 握った手を放せるか
動いたかどうかではなく、言ったとおりに動いたかどうかを見ます。
抜管の手順と体位

条件がそろってきたら、抜く作業に入ります。ここでやることは2つだけです。刺激を減らすことと、抜いたあとに気道が保てる姿勢を作ることです。手順そのものは短く、迷う余地はあまりありません。抜く瞬間よりも、その前の数分の過ごし方で結果が変わります。
吸引は深い麻酔のうちに
吸引のタイミングには、決まった考え方があります。
ガイドラインは、口の中の吸引はルーチンで、気管内の吸引は必要なときに、いずれも麻酔薬の投与を中止する前に実施することを推奨しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。麻酔が浅くなってからの吸引は、咳や危険な体動を誘発してしまいます。
- 口腔内の吸引はルーチンで行う
- 気管内の吸引は必要なときだけ
- どちらも麻酔を止める前に済ませる
吸引は、麻酔が深いうちに終わらせておく作業です。
体にもチューブにも触れない
覚醒の途中でもっとも大事なのは、何もしないことです。
浅い麻酔のときに患者の体や手術台、気管チューブに触れると、それが刺激になって咳や体動が出ます。ガイドラインも、覚醒の過程では気道反射の誘因となる刺激を最小にすることを推奨しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 患者の体
- 手術台
- 気管チューブや声門上器具
転落しないように手術台の近くで見守るのは必要ですが、触るのは別の話です。手術室にいる全員で共有しておきたいところです。
覚醒中は、触れないことがそのまま処置になります。
頭高位で抜く
体位も結果を変えます。
呼吸や気道管理のリスクがある患者の覚醒と抜管は、頭高位や半座位で実施することが推奨されています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。上体を起こしたほうが喉の奥が保ちやすく、酸素化にも有利です。
覚醒する前にバイトブロックを入れておくことも書かれています。覚醒とともに噛む力が戻り、気管チューブを噛んで気道が閉じることがあるためです。
- 頭高位や半座位をとる
- 覚醒前にバイトブロックを入れる
- 体やチューブに触れない
抜く前に、起こす・噛ませない・触らないの3つを整えておきましょう。導入から固定までの流れは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことにまとめました。
抜管直後の確認と対応

4つ目の条件は、抜いたあとに患者が自分の気道を保てることです。ガイドラインは、抜管後の気道維持を確実に予測できる方法は現時点で存在しないとしています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。抜いてから確かめるしかない項目です。ですから抜管は、抜いた瞬間で終わりではありません。
上気道が保てているか
すべての患者で、抜管直後に上気道閉塞の有無を確認します(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
いびきのような狭窄音、胸とお腹が逆に動く呼吸、浅く速い呼吸や首の筋肉を使った呼吸。こうした所見があれば、上気道が閉じかけています。
- いびきのような狭窄音
- 胸と腹の動きが逆になる呼吸
- 浅く速い呼吸や補助呼吸筋の使用
ただし見た目だけでは、咽頭が閉じているのか喉頭が閉じているのかは区別できません(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
波形で確かめる
確実なのは、二酸化炭素の波形です。
抜管直後にマスクを密着させて、カプノグラムの波形が出るかを確認する方法が有効だとされています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。波形が出ないときは、呼びかけによる覚醒刺激と両手での気道確保を行います。
- マスクを密着させる
- 波形が出るかどうかを見る
- 出なければ覚醒刺激と両手気道確保
波形の読み方は【麻酔のモニターの見方】研修医が最初に押さえる数値と波形に、両手での気道確保は【マスク換気のコツ】研修医が押さえる持ち方と見直す順番に書いています。
胸の動きだけで判断せず、波形が繰り返し出ることを確かめてください。
閉塞を疑ったときの対応
対応には順番があります。
まず呼びかけとマスクを密着させた両手気道確保を行い、改善しなければ陽圧をかけた補助呼吸に進みます。ガイドラインの対応アルゴリズムでは、SpO2が90%を下回ることが再挿管へ進む分岐の1つとして示されています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。ただし臨床では一概には言えません。危ないと感じたら、90%まで待たずに手を打つこともあります。喉頭けいれんを疑うときは、両側の顎関節部を強く刺激する方法や経鼻エアウェイの挿入も検討します。
- 呼びかけと両手での気道確保
- 改善しなければ陽圧の補助呼吸
- 悪化すれば再挿管の宣言と準備
一人で粘る時間を作らないことが大事です。すばやく人を集める仕組みを整えておくことも、ガイドラインで提案されています。
迷ったら、応援を呼ぶのが最初の手になります。
抜管を見送る判断

抜かないという選択も、抜管の基準の一部です。研修医は抜けなかったことを失敗と感じがちですが、そうではありません。ガイドラインは、抜管により危険な状態が予測される患者は手術直後には抜管せず、呼吸管理を継続することを推奨しています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。抜かない判断は、迷ったときのための正当な選択肢です。
手術室で抜管しない選択
抜管するかどうかは、覚醒を始める前に決めます。
術後の痛みの対策を済ませ、覚醒前の呼吸と循環が安定していることを確かめたうえで、4つの条件を手術室で達成できるかどうかを判断します。難しいと考えれば、予定どおり、あるいは予定外でも挿管のまま退室します(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 術後の痛み対策が済んでいるか
- 呼吸と循環が安定しているか
- 4つの条件が達成できそうか
リスクを冒して抜くより、場所と時間を変えて抜くほうが安全なこともあります。
再鎮静という選択
覚醒の途中で止める判断もあります。
自発呼吸が確立していない段階で危険な体動や気道反射が起き、従命可能かどうかも確認できない。このときは気道確保の器具を抜かず、プロポフォールなどで再鎮静することが推奨されています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
- 器具は抜かずに鎮静する
- 落ち着いてから再度覚醒を試す
- 手術室では抜管しないという判断
落ち着いてからもう一度覚醒を試すこともできますし、そのまま手術室では抜管しないという選択もできます。深い麻酔のまま抜く深麻酔下抜管という方法もありますが、熟練を要する手技とされており、研修医が自分で選ぶものではありません。なおこの方法をとる場合は、声門上器具の活用が推奨されています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。器具そのものについては【ラリンジアルマスクの挿入】研修医が押さえるサイズ選びと手順をご覧ください。
いったん戻すことは、後退ではなく仕切り直しです。
退室の目安に使うスコア
退室してよいかどうかの目安として、修正アルドレートスコアを使っている施設も多いはずです。
ガイドラインにも、術後の回復を評価するための修正Aldrete Score(修正アルドレートスコア)の改訂版が表として掲載されています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。活動度、呼吸、循環、意識、酸素飽和度、術後の痛み、術後の嘔吐の7項目を、それぞれ0点から2点で採点するものです。
- 四肢を動かせるか
- 深呼吸と咳ができるか
- 血圧が麻酔前の値に近いか
- 完全に覚醒しているか
- 室内気で酸素飽和度を保てるか
- 術後の痛みが抑えられているか
- 悪心や嘔吐が続いていないか
ガイドラインは、早期警告スコアと共通する項目のほかに、呼吸の様子、四肢の動き、術後の痛み、術後の悪心・嘔吐が含まれている点で有用だとしています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。
ただし、このスコアだけで全例の退室を決めているわけではありません。一つの目安として使うもので、最後に見るのは4つの条件と患者の様子です。
退室前に共有すること
抜管できた場合も、退室の前に確認することがあります。
4つの条件の達成状況に加えて、呼吸と循環が安定し、術後の痛みが抑えられているかを見ます。徐呼吸や頻呼吸、胸鎖乳突筋などの補助呼吸筋を使った呼吸パターンでの退室は許可すべきでないと明記されています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。スガマデクスを使ったなら、アナフィラキシーの有無も確認します。周術期のアナフィラキシーについては【周術期アナフィラキシーの対応】研修医が押さえる気づき方と初期治療にまとめました。
- 呼吸と循環の安定
- 術後の痛みのコントロール
- 未達成の項目の申し送り
未達成の項目があるなら、その内容を術後の管理に関わるスタッフに申し送ります。
抜管は、申し送りまで含めて1つの作業です。
抜管の基準のよくある質問

研修医からよく出る質問をまとめました。施設の方針や患者の状態が優先される項目もありますので、最終的には指導医に確認してください。判断に迷ったときは、抜かないほうを選んで相談するのが安全です。
TOFはどこまで戻れば抜管できますか
ガイドラインは、四連反応比が90%を超えることを目標としています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。5秒間の頭部挙上ができたといった臨床的な評価や、目視での減衰の確認は根拠にしないと書かれています。数値で90%超えを確かめてください。
咳が出たら抜いてよいですか
咳反射は気道への刺激で誘発された反射で、自発呼吸とは別のものです。抜く合図にはなりません。咳が出たら、刺激を減らして覚醒が進むのを待ちます。
自発呼吸が出る前に抜管することはありますか
あります。激しい咳反射や危険な体動があるときなど、指示に従える覚醒レベルを確認して抜管せざるを得ない場面です(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。その場合も、抜いたあとに呼吸指示なしで自発的な呼吸が続くことを確認します。ガイドラインが勧める形は、自発呼吸と従命の両方を抜管前に達成することです。
バイトブロックはいつ入れますか
覚醒する前に入れておきます。覚醒とともに噛む力が戻り、気管チューブを噛んで気道が閉塞することがあるためです(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。覚めてから入れようとしても、もう入りません。
抜管後はどのくらい見ていればよいですか
ガイドラインは、4つの条件が達成できていてもいなくても、少なくとも術後1時間はその推移に注意するとしています。術後3時間以内は手術や麻酔の影響による上気道の閉塞に、それ以降は機能的残気量の低下による低酸素血症などに留意するよう書かれています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。手術室を出たところで終わりではないわけです。
抜管できなかったら失敗ですか
失敗ではありません。ガイドラインは、リスクを冒して抜管するよりも、未抜管のままICUなどでリスクを軽減したのちに抜管する選択をためらわないことが重要であり賢明だとしています(出典:日本麻酔科学会 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン)。抜かない判断ができることも、評価される力です。
まとめ 抜管の基準

抜管の基準は、タイミングの勘ではなく条件です。筋収縮の回復、自発呼吸の回復、従命可能な意識レベル、抜管後の上気道維持。この4つを確かめ、そろわなければ待つか、抜かない判断をします。
- モニターで確かめる筋弛緩の回復
- 呼びかけなしで続く自発呼吸
- 指示動作で確かめる覚醒
- 抜いた直後に見る上気道
- 抜かないという選択肢
次に抜いてよいか迷ったら、4つを順に確かめてみてください。言葉にできれば、指導医と同じ土俵で話せます。
当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。導入から挿管までは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことに、術中に見る数値と波形は【麻酔のモニターの見方】研修医が最初に押さえる数値と波形にまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。


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