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【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきこと

入室から挿管までの麻酔導入の流れを示したアイキャッチ画像 麻酔の基本

麻酔導入は、数分のうちに意識も呼吸も循環も大きく変わる場面です。見ているだけで終わってしまい、自分が何を確認すべきか分からないまま終わった。麻酔科をローテートした研修医から、よく聞く感想です。

こんな戸惑いはありませんか
  • 薬を入れる順番と理由
  • 次へ進んでよい判断
  • 導入直後に見るところ
  • うまくいかないときの動き

導入の流れは、実はそれほど複雑ではありません。1つずつ確認しながら次へ進む。この積み重ねが導入のすべてです。

麻酔導入の流れに戸惑う研修医のアイコン
研修医

導入はあっという間に進んでいくので、自分が何を見ればいいのか分からなくなります。

現役麻酔科医のアイコン
麻酔科医

次へ進んでよいかを1つずつ確認していけば大丈夫です。順番が決まっていれば慌てません。

この記事では、入室前の準備から患者確認、前酸素化、薬の投与、気管挿管、そして導入直後の立て直しまでを順に整理します。日本麻酔科学会の気道管理ガイドラインの考え方も、要所で紹介します。個々の手技については、それぞれの記事へリンクしました。

麻酔導入の前に整えること

麻酔導入の前に整えることを表すバナー画像

導入は、麻酔の中で最も短い時間に多くのことが起こる場面です。その場で考えている余裕はありません。導入が安定するかどうかは、始める前の準備でほとんど決まります。ここでは、患者が入室する前に整えておくことを確認します。麻酔器の点検については【麻酔器の始業点検】その点検は何を防ぐのか現役麻酔科医が解説にまとめました。

入室前の確認

患者が入室する前に、術前の情報をもう一度たどり直します。

手術の内容と体位、気道評価の結果、アレルギーや既往・併存症、絶飲食の状況。前日までに済ませた術前評価の中身を、当日の担当者として自分の頭に入れ直す作業です。

  • 手術の内容と予定時間
  • 気道評価の結果
  • アレルギーと既往・併存症
  • 絶飲食の状況

当日の朝に確認するのは、前日からの変化があるかどうかです。術前評価の進め方は【術前評価のポイント】麻酔科医が手術前日までに見る項目にまとめました。

物品と薬剤の準備

使う物品と薬剤を、手の届く場所にそろえます。

喉頭鏡やチューブ、吸引、用手換気の道具。薬剤は鎮静薬、鎮痛薬、筋弛緩薬に加えて、血圧が下がったときに使う昇圧薬まで用意しておきます。

  • 気道確保の器具一式
  • 吸引と用手換気の準備
  • 鎮静薬と鎮痛薬と筋弛緩薬
  • 希釈した昇圧薬

昇圧薬を導入前に手元へ置いておくと、血圧が下がったときに慌てずに済みます。

チームでの申し合わせ

導入は1人で行うものではありません。

看護師や臨床工学技士と、どの順で何をするのかを共有しておきます。気道確保が難しそうな症例では、あらかじめ人を多めに集めておくことも準備の1つです。

難しくなりそうな症例ほど、始める前に声をかけ合っておきましょう。

入室から導入開始までの流れ

入室から麻酔導入開始までの流れを表すバナー画像

患者が入室してから麻酔薬を入れるまでのあいだにも、確認すべきことが並んでいます。ここを丁寧に進めるほど、そのあとの導入は安定します。入室してからの数分は、確認のための時間だと考えてください。順番に見ていきましょう。

入室時のチェックとモニター装着

入室したら、麻酔を導入する前に決まった項目を確認します。

WHOの手術安全チェックリストでは、麻酔導入前の段階で確認することがまとめられています。患者本人と手術部位、術式、同意の確認に加えて、アレルギーの有無や気道確保の難しさも項目に入っています。パルスオキシメータが患者に装着され、正しく作動していることを確認するのも、この段階の項目です。

  • 本人と手術部位と術式の確認
  • 同意が得られていること
  • アレルギーの有無
  • パルスオキシメータの装着と作動

心電図や血圧計も装着し、麻酔を始める前の値を見ておきます。この値が、導入後に起こる変化を判断するときの基準になります。モニターの見方は【麻酔のモニターの見方】研修医が最初に押さえる数値と波形にまとめました。

確認する順番は施設の手順によりますが、モニターの装着もこのチェックの一部だと考えてください(出典:WHO手術安全チェックリスト(日本麻酔科学会掲載))。

静脈路の確保

入室時のチェックが終わったら、静脈路を確保します。

導入のときは、確実に使える静脈路が1本あれば十分です。出血が予想される手術などで2本目や動脈ラインが必要になる場合は、導入の前にとっておきます。

ルートの取り方は【ルートの取り方】研修医が失敗しにくくなる血管選びと手順にまとめました。薬を入れる前に、点滴が確実に入っていることを確かめてください。

前酸素化

麻酔を導入する前に、酸素を十分に吸ってもらいます。

自発呼吸が止まってから気道が確保できるまでのあいだ、患者は自分で呼吸できません。その時間を安全に過ごすための備えが前酸素化です。

  • マスクが顔に密着していること
  • 呼吸に合わせてバッグが動くこと
  • 十分な時間をかけること
  • 呼気の酸素濃度が上がること

目安の1つとして、たとえば顔にマスクを密着させ、高濃度の酸素を3分間吸入してもらう方法がガイドラインに挙げられています。こうすると肺の中の窒素が効率よく酸素に置き換わり、低酸素になるまでの時間を延ばせます(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

できているかどうかは、マスクの密着とバッグの動きで確かめられます。麻酔器で呼気の酸素濃度を測れる場合は、その値も目安になります。

麻酔導入の実際の手順

麻酔導入の実際の手順を表すバナー画像

ここからが導入の本番です。薬を入れる順番と、それぞれの段階で何を確認するのかを押さえましょう。次へ進んでよいかどうかを、1つずつ確かめながら進めていきます。日本麻酔科学会の気道管理ガイドラインの考え方も、あわせて紹介します。

静脈麻酔薬の投与と意識消失の確認

鎮静薬を投与すると、数十秒のうちに意識がなくなります。

呼びかけへの反応やまつ毛の反射で、意識が消えたことを確認します。このとき血圧が下がりやすいため、モニターの値からも目を離せません。安全な麻酔のためのモニター指針でも、血圧は原則5分間隔で測定し、必要なら頻回に測定するとされています。導入の前後だけ2.5分間隔などに短くしておくと、変化に早く気づけます。

  • 呼びかけへの反応
  • まつ毛の反射
  • 血圧と心拍数の変化

意識の消失を確認してから、次の段階へ進みます。薬の役割の分け方は【全身麻酔の3要素】1つ欠けると何が起きるのかを現役医師が解説にまとめました。

マスク換気の確認

意識がなくなったら、マスクで換気ができるかを確かめます。持ち方や入らないときの見直し方は【マスク換気のコツ】研修医が押さえる持ち方と見直す順番にまとめました。

ガイドラインでは、カプノグラムの波形をもとに換気の状態を3段階で評価することが勧められています。波形が正常に出る状態であることを確認できたら、予定していた気管挿管や声門上器具の挿入に進んでよいとされています。

  • 波形が正常に出る状態
  • 換気が不十分な状態
  • 換気ができない状態

換気ができているかどうかは、手の感覚だけでなく波形でも確かめてください(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

筋弛緩薬の投与

換気が確認できたら、筋弛緩薬を投与します。

ガイドラインでは、気管挿管や声門上器具の挿入は、深い麻酔状態か筋弛緩が完全に効いた状態で行うべきだとされています。さらに、マスク換気がうまくいかない場合には、筋弛緩薬がまだ投与されていなければ投与することが、換気を改善する方法の1つとして挙げられています。

  • 効果が現れるまでの時間
  • TOFモニターでの確認
  • 換気が悪いときの選択肢

換気ができないから筋弛緩薬を入れない、という判断が常に正しいとは限りません(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

気管挿管とチューブの確認

筋弛緩が効いたら、気管挿管を行います。

挿管したら、呼気の二酸化炭素の波形が繰り返し出ることを確認し、両側の呼吸音を聴いてからチューブを固定します。波形が続かないなら、抜いて換気に戻ります。

  • 繰り返し出る二酸化炭素の波形
  • 左右差のない呼吸音
  • チューブの深さと固定

確認が済むまでは、固定も次の操作も始めません。挿管のコツは【気管挿管のコツ】声門が見えないときに見直す順番で解説しています。

導入直後に確認すること

麻酔導入直後に確認することを表すバナー画像

挿管が終わっても、導入はまだ終わりではありません。むしろ、ここからの数分に変化が起こりやすい時間帯です。手術が始まる前のこの時間に、崩れたものを整えておきます。3つの確認を順に見ていきます。

換気の設定と確認

人工呼吸器につないだら、換気の状態を確かめます。

胸の上がり方、気道内圧、呼気の二酸化炭素の値を見ながら設定を調整します。チューブが片方の肺に入り込んでいないかどうかも、この時点で確認しておきます。

  • 胸の上がり方
  • 気道内圧
  • 呼気二酸化炭素の値
  • 左右差のない呼吸音

設定したまま放置せず、値を見ながら調整してください。

循環の立て直し

導入直後は、血圧が下がりやすい時間帯です。

麻酔薬によって血管が広がる一方で、手術の刺激はまだ加わっていません。この2つが重なるためです。輸液や昇圧薬を使いながら、その患者の普段の血圧に近づけていきます。

下がってから探すより、下がることを見込んで備えておくほうが確実です。

固定と体位

最後に、チューブや点滴の固定を確認し、手術の体位をとります。

このとき、患者につながっているものを立体的に整理しておきます。上から呼吸回路の蛇管、その下に点滴のルート類、さらに下にモニターのケーブルというように重なる順を決めておくと、絡まずに扱えるようになります。

体位を変えると、チューブの深さが変わったり血圧が動いたりします。動かしたあとには、もう一度換気と循環を確認してください。

  • チューブの固定と深さ
  • 点滴ラインの固定
  • 蛇管とルートとケーブルの重なり順
  • 体位変換後の換気
  • 体位変換後の血圧

体位を変えたら必ず確認し直す。これを習慣にしてください。

導入でつまずきやすい場面

麻酔導入でつまずきやすい場面を表すバナー画像

研修医が導入でつまずく場面は、だいたい決まっています。先に知っておけば、その場で固まらずに次の手を打てます。ここでは、よくある4つの場面を取り上げます。

薬の量を計算してきていない

意外に多いのが、薬の量を計算しないまま手術室に入ってしまうことです。

鎮静薬も筋弛緩薬も、体重をもとに量を決めます。導入が始まってから計算を始めると、その分だけ手が止まり、患者の状態を見る余裕がなくなります。

  • 患者の体重の確認
  • 使う薬ごとの量
  • 昇圧薬の希釈と量

担当する症例の薬の量は、手術室に入る前に計算しておいてください。

マスク換気が入らない

マスク換気がうまくいかないことは、それほど珍しくありません。

ガイドラインには、両手でマスクを保持して従圧式換気を使う方法や、気道確保の補助器具を使う方法、応援を要請することなどが挙げられています。筋弛緩薬がまだ入っていなければ、投与することで換気が改善する可能性もあります。

  • 両手でのマスク保持
  • 気道確保の補助器具
  • 筋弛緩薬の投与
  • 他の麻酔科医への応援要請

1人で粘らず、方法を変えるか人を呼んでください(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

挿管に手間取る

見えない、入らない。挿管で手が止まることは誰にでもあります。

ガイドラインでは、同じ人が同じ器具で3回以上繰り返すことは避けるべきだとされています。回数を重ねるほど出血や腫れで状況が悪くなり、次の人の条件まで悪くしてしまいます。

  • 器具を変える
  • 人を代わってもらう
  • 声門上器具に切り替える

同じやり方を繰り返さず、条件を変えることが最優先です。見直す順番は【気管挿管のコツ】声門が見えないときに見直す順番にまとめました(出典:日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」)。

導入直後の血圧低下

導入直後の血圧低下は、最もよく出会う変化です。

高齢の方や脱水のある方、降圧薬を飲んでいる方ではとくに下がりやすくなります。あらかじめ昇圧薬を手元に用意し、下がり始めた時点で対応します。

普段の血圧からどれだけ下がったかで判断してください。

麻酔導入のよくある質問

麻酔導入のよくある質問を表すバナー画像

麻酔導入について、研修医からよく受ける質問をまとめました。導入の進め方は施設や指導医によって細かな違いがあるため、実際の手順は指導医に確認してください。ここでは考え方の軸をお伝えします。

薬の量はいつ計算しておくか

遅くとも手術室に入る前には計算を終えておきます。体重や年齢、腎機能や肝機能を見て、使う薬の量を決めておきましょう。計算した量は書き出しておくと、導入中に見返せます。

マスク換気の良し悪しをどう判断するか

胸の上がり方やバッグの手応えに加えて、カプノグラムの波形で判断します。ガイドラインでは、波形をもとに換気の状態を3段階に分けて評価することが勧められています。手の感覚だけに頼らず、波形という客観的な指標をあわせて見てください。

筋弛緩薬の前にマスク換気を確認する理由

換気ができることを確かめてから次へ進むのが基本の流れです。ただし、換気がうまくいかないときに筋弛緩薬を入れないという判断が、常に正しいわけではありません。ガイドラインでは、筋弛緩薬の投与が換気を改善する方法の1つとして挙げられています。迷ったときは、その場で指導医に相談してください。

挿管を何回まで試してよいか

回数そのものより、患者の酸素化が保てているかどうかが基準になります。そのうえでガイドラインは、同じ人が同じ器具で3回以上繰り返すことを避けるべきだとしています。条件を変えずに繰り返すことが、最も避けたい進め方です。

迅速導入との違い

胃の中に内容物が残っていると考えられる場合には、迅速導入という方法をとります。前酸素化のあと、マスク換気を行わずに短い時間で挿管まで進めるのが基本の考え方です。誤嚥の危険と、換気をしない時間の長さを天秤にかけた方法だと理解してください。実際の手順は施設によって違うため、指導医に確認しましょう。迅速導入で急ぐ理由と、その怖さについては【迅速導入の手順】研修医が知りたい通常の導入との違いと怖さで詳しく解説しました。

導入が終わったと判断する目安

チューブが確実に入って固定され、換気と循環が落ち着き、体位をとったあとも変化がないことを確認できた時点です。手術が始まってからではなく、始まる前に整えておくのが導入の仕事です。

まとめ 麻酔導入の流れ

麻酔導入の流れのまとめを表すバナー画像

麻酔導入は、準備、入室してからの確認、薬の投与、導入直後の立て直しという流れで進みます。順番を決めて1つずつ確認しながら進むことが、安全に導入を終えるいちばんの近道です。

この記事の振り返り
  • 手術室に入る前に終える薬の計算
  • 導入前の血圧と心拍数の確認
  • 波形で確かめるマスク換気
  • 換気を改善する筋弛緩薬という選択肢
  • 体位を変えたあとの再確認

次の導入では、薬を入れる前に自分が何を確認するのかを声に出してみてください。順番が決まっていれば、慌てることは減っていきます。

当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。導入と対になる抜管の判断は【抜管の基準】研修医が押さえる4つの条件と迷ったときの判断にまとめました。気管挿管の手技は【気管挿管のコツ】声門が見えないときに見直す順番に、モニターの見方は【麻酔のモニターの見方】研修医が最初に押さえる数値と波形にまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。

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