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【末梢神経ブロックとは】硬膜外麻酔と何が違いどんなときに選ぶのか

末梢神経ブロックとはを表すアイキャッチ画像 区域麻酔・鎮痛

手術室で、麻酔科医が超音波のプローブを当てながら細い針を進めている。全身麻酔をかけたあとなのに、なぜわざわざ神経ブロックを行うのか。どこに何を投与しているのか。麻酔科をローテートしている研修医が、よく抱く疑問です。

こんな疑問はありませんか
  • 神経ブロックの目的が分からない
  • 硬膜外麻酔との違いがあいまい
  • RSBやTAPBなど略語が多すぎる
  • 横で見ていて何を見ればよいか分からない

末梢神経ブロックは、手術する部位の神経だけに局所麻酔薬を効かせる方法です。部位を絞って鎮痛を作れることと、硬膜外麻酔を避けたい場面でも選べることが、いちばんの特徴です。

神経ブロックの目的に迷う研修医のアイコン
研修医

全身麻酔をかけているのに、どうしてブロックもするんですか。

現役麻酔科医のアイコン
麻酔科医

目が覚めたあとの痛みのためです。部位を絞って効かせられるので、硬膜外麻酔を避けたいときにも選べるんですよ。

この記事では、末梢神経ブロックとはどんな麻酔か、硬膜外麻酔との違い、ブロックを選ぶ場面、主な種類、超音波で見ていること、研修医がブロックの場面で見ておくことを整理します。区域麻酔の記事としては、硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔に続く3本目です。

末梢神経ブロックとはどんな麻酔か

末梢神経ブロックとはどんな麻酔かを表すバナー画像

末梢神経ブロックは、脊髄から枝分かれしたあとの神経の近くに局所麻酔薬を投与し、その神経が支配する範囲の痛みを止める方法です。全身麻酔と組み合わせて、術中と術後の鎮痛に使うことが多い麻酔です。全身麻酔の代わりではなく、痛みを受け持つ役割として組み合わせます。

神経の近くに局所麻酔薬を投与する

狙うのは、脊髄から枝分かれしたあとの神経です。

腕なら腕神経叢、足なら大腿神経や坐骨神経、お腹なら腹壁を走る神経というように、手術する部位を支配している神経の近くに局所麻酔薬を投与します。その神経が担当する範囲にだけ、麻酔が効きます。

  • 腕なら腕神経叢
  • 足なら大腿神経や坐骨神経
  • お腹なら腹壁を走る神経

効く範囲は、狙った神経の支配領域で決まります。

全身麻酔と組み合わせる

多くの手術では、全身麻酔と組み合わせて使います。

全身麻酔が意識をなくし、ブロックが手術部位の痛みを抑えます。全身麻酔の3要素のうち、鎮痛の一部をブロックが受け持つ形です。3要素については【全身麻酔の3要素】1つ欠けると何が起きるのかを現役医師が解説にまとめました。

  • 意識は全身麻酔が受け持つ
  • 手術部位の痛みはブロックが受け持つ
  • 術中のオピオイドを減らせる

ブロックが効いていれば、術中のオピオイドを減らせます。

術後の痛みまで続く

ブロックの効果は、手術が終わってからも続きます。

全身麻酔の薬は覚醒とともに切れていきますが、局所麻酔薬の効果はしばらく続きます。神経の近くにカテーテルを留置して持続で投与すれば、さらに長く続けることもできます。術後鎮痛の組み立ては【術後鎮痛の方法】研修医が迷う決め方と組み合わせの考え方に書きました。

覚醒したあとの痛みまで見越して行うのが、ブロックです。

硬膜外麻酔との違い

末梢神経ブロックと硬膜外麻酔の違いを表すバナー画像

同じ区域麻酔でも、硬膜外麻酔と末梢神経ブロックは局所麻酔薬を効かせる場所が違います。硬膜外麻酔は脊髄のすぐ近くで、末梢神経ブロックは脊髄から離れた神経で効かせます。効かせる場所が違うので、効く範囲も出血のリスクも変わります。硬膜外麻酔の仕組みは【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかにまとめました。

効く範囲の違い

硬膜外麻酔は、カテーテルを留置した椎間を中心に、体の左右両側の帯状の範囲に効きます。

末梢神経ブロックは、狙った神経の支配領域にだけ効きます。片側の腕や足の手術であれば、その側だけに効かせることができます。

  • 硬膜外麻酔は左右両側の帯状の範囲
  • 末梢神経ブロックは狙った神経の範囲
  • 片側の手術に向いている

片側の手足の手術では、ブロックのほうが範囲を絞れます。

出血のリスクの違い

もう1つの大きな違いが、出血のリスクです。

抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドラインでは、区域麻酔と神経ブロックを出血のリスクで分類しています。腹直筋鞘ブロック、腹横筋膜面ブロック、大腿神経ブロック、腋窩法の腕神経叢ブロックなどは体表面の神経ブロックとして、硬膜外麻酔や深部の神経ブロックより出血リスクの低い群に分けられています(出典:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン)。

深部の神経は、出血したときに圧迫して止血することが難しいためです。

  • 体表面のブロックは出血リスクが低い群
  • 深部のブロックや硬膜外麻酔はそれより高い
  • 圧迫止血できるかどうかが分かれ目

体表面のブロックは、出血しても圧迫で止めやすいのです。

脊髄から離れた場所で行う

硬膜外麻酔で最も注意すべき合併症の1つが、硬膜外血腫です。

多くの末梢神経ブロックは脊髄から離れた場所で行うので、硬膜外血腫の心配がありません。そのぶん、抗血栓薬を飲んでいる患者でも選択肢に入りやすくなります。脊髄くも膜下麻酔との違いもあわせて知りたい場合は【脊髄くも膜下麻酔とは】硬膜外麻酔と何がどう違うのかをご覧ください。

脊髄の近くに針を進めないことが、ブロックの安心材料です。

ブロックを選ぶ場面

末梢神経ブロックを選ぶ場面を表すバナー画像

術後鎮痛の方法として、硬膜外麻酔と末梢神経ブロックのどちらを選ぶかは、患者と手術によって決まります。筆者がブロックを選ぶのは、主に抗血栓薬を内服しているときと、術式からブロックが適していると判断したときです。ブロックは、場面に合わせて選ぶ方法です。

抗血栓薬を飲んでいるとき

抗血栓薬を内服している患者では、ブロックを考えます。

硬膜外麻酔は、抗血栓薬の種類によっては休薬しないと行えません。体表面の神経ブロックは出血リスクの低い群に分類されているので、選択肢になりやすい方法です。ただし、ガイドラインではブロックごと・薬ごとに個別の判断や休薬期間が示されているので、内服している薬に合わせて確かめます(出典:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン)。

  • 硬膜外麻酔は休薬が必要なことがある
  • 体表面のブロックは出血リスクが低い群
  • 薬ごとにガイドラインで確かめる

ブロックだから何でも大丈夫、というわけではありません。

術式から判断する

手術の種類によっても、ブロックが向いている場面があります。

片側の手足の手術や、お腹の傷が小さい腹腔鏡の手術などです。どのブロックが向いているかを考えるときは、筆者はPROSPECTを参考にしています(出典:欧州区域麻酔学会 PROSPECT)。欧州区域麻酔学会が術式ごとの推奨をまとめたもので、日本の事情と違う部分もあるため、参考程度に見るのがよいと思います。

  • 片側の手足の手術
  • 傷の小さい腹腔鏡手術
  • 術式ごとの推奨はPROSPECTで確認

術式に合うブロックを、根拠をもって選びます。PROSPECTについては【術後鎮痛の方法】研修医が迷う決め方と組み合わせの考え方でも紹介しました。

症例によって変わる

どのブロックを選ぶかは、症例によって変わります。

同じ手術でも、患者の体格や合併症、施設で慣れている方法によって選択は変わります。筆者も、外科の手術なら腹直筋鞘ブロックや腹横筋膜面ブロック、整形外科の手術なら腕神経叢ブロック、坐骨神経ブロック、大腿神経ブロックなど、症例に合わせて行っています。

決まった正解より、その症例でなぜそれを選んだかを説明できることが大切です。

主な神経ブロックの種類

主な神経ブロックの種類を表すバナー画像

神経ブロックにはたくさんの種類がありますが、研修医がまず知っておけばよいのは、部位ごとの代表的なものです。ここでは体幹、上肢、下肢に分けて紹介します。略語で呼ばれることが多いので、正式名称と一緒に覚えておくと、手術室での会話が分かりやすくなります。名前を全部覚えるより、どの部位の手術で使うかを押さえます。

体幹のブロック

お腹の手術でよく使うのが、腹壁の神経をブロックする方法です。

腹直筋鞘ブロック(rectus sheath block:RSB)は、お腹の正中の傷に使われます。腹横筋膜面ブロック(transversus abdominis plane block:TAPB)は、下腹部や側腹部の傷に使われます。どちらも、腹壁を走る神経の通り道に局所麻酔薬を投与する方法です。

  • 腹直筋鞘ブロック(RSB)
  • 腹横筋膜面ブロック(TAPB)
  • 正中の傷か、側腹部の傷か

傷の位置によって、どちらのブロックを選ぶかが変わります。

上肢のブロック

腕の手術では、腕神経叢ブロック(brachial plexus block:BPB)を使います。

腕神経叢は、腕を支配する神経の束です。肩、上腕、肘から手まで、手術する部位によって、首のあたりから脇の下まで、どこでブロックするかを変えます。ガイドラインでは、首や鎖骨のまわりで行う方法は深部の神経ブロック、脇の下で行う腋窩法は体表面の神経ブロックに分類されています(出典:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン)。

  • 腕神経叢ブロック(BPB)
  • 手術の部位でブロックする場所を変える
  • 腋窩法は体表面のブロック

同じ腕神経叢ブロックでも、どこで行うかで出血リスクの分類が変わります。

下肢のブロック

足の手術では、大腿神経ブロックと坐骨神経ブロックを使います。

大腿神経ブロック(femoral nerve block:FNB)は太ももの前面から膝の前面に、坐骨神経ブロック(sciatic nerve block:SNB)は太ももの裏側から膝より下の多くの範囲に効きます。膝や足の手術では、2つを組み合わせることもあります。ガイドラインでは、大腿神経ブロックは体表面、坐骨神経ブロックは深部の神経ブロックに分類されています(出典:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン)。

  • 大腿神経ブロック(FNB)
  • 坐骨神経ブロック(SNB)
  • 組み合わせて使うこともある

大腿神経ブロックでは、太ももの筋力も落ちることを覚えておいてください。

超音波で見ていること

超音波ガイド下の神経ブロックで見ていることを表すバナー画像

今の末梢神経ブロックは、多くが超音波を見ながら行われます。プローブを当てて、神経、血管、筋肉と、針の位置を画面で確かめながら進めます。局所麻酔薬中毒のプラクティカルガイドも、超音波ガイド下の末梢神経ブロックは針先と神経の位置関係を視認できるため、成功率の向上に寄与していると述べています(出典:日本麻酔科学会 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド)。画面の上で、針先がどこにあるかを見続けることが基本です。

神経と血管を見分ける

画面には、神経、血管、筋肉が映ります。

狙う神経のすぐ近くには、太い血管が走っていることが少なくありません。ブロックを行う前に、どれが神経で、どれが血管かを見分けておきます。

  • 狙う神経の位置
  • 近くを走る血管
  • 筋肉と筋膜の層

神経の隣にある血管を、先に見つけておきます。

針先が出ているか

いちばん大事なのは、針先が画面に映っているかどうかです。

針の先端が見えないまま進めると、思わぬところに針が届いてしまうことがあります。筆者も研修医には、ブロックの場面で針先がきちんと出ているかを見てほしいと伝えています。

  • 針の先端が画面に映っているか
  • 狙った場所に向かっているか
  • 見えなくなったら進めない

針先が見えていないときは、針を進めてはいけません。

薬が広がる様子

局所麻酔薬を投与すると、画面の上で薬が広がっていく様子が見えます。

狙った場所で薬が広がれば、針先が正しい位置にあるということです。投与しているのに薬の広がりが見えないときは、まず針先がきちんと画面に映っていない可能性を考えます。広がりが見えないからといって、血管内に入っているとはかぎりません。なお、超音波を使っていても、血管内投与を完全に防げるわけではないとされています(出典:日本麻酔科学会 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド)。

薬の広がりが見えないときは、投与を止めて針先を探し直します。

研修医が見ておくこと

研修医が神経ブロックの場面で見ておくことを表すバナー画像

研修医がブロックを自分で行う場面は、多くありません。それでも、横で見ていて学べることはたくさんあります。筆者が見てほしいのは、針先がきちんと出ているかと、血管内投与になっていないかの2つです。手を動かすことより、何を確かめているかを見てください。

画面の中の針先

まず、超音波の画面を一緒に見ます。

麻酔科医がどこで針先を確かめ、どこで針を止めているかを見ると、ブロックが何を見ながら行われているのかが分かります。針先が画面から外れたときに、どう動いているかも見てください。

針先を見ながら進めている、という感覚をつかんでください。

血管内投与になっていないか

次に、局所麻酔薬を投与する場面です。

投与の前に吸引しているか、少しずつ分けて投与しているか、薬の広がりが画面に見えているかを確かめます。局所麻酔薬中毒の予防と対応は【局所麻酔薬中毒の対応】研修医が押さえる症状と最初にやることにまとめました。

  • 投与の前の吸引
  • 少しずつ分けた投与
  • 画面の上での薬の広がり

血管内投与のサインに気づけるよう、投与の場面を見ておきます。

ブロックのあとに見ること

ブロックが終わったあとも、見ることがあります。

局所麻酔薬中毒は、投与からしばらくたって起こることもあり、大量に使った場合は少なくとも30分間は観察が必要とされています(出典:日本麻酔科学会 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド)。また、大腿神経ブロックのあとは太ももの筋力が落ちるので、術後に歩き始めるときの転倒にも注意が要ります。

  • 投与後の局所麻酔薬中毒
  • 太ももの筋力低下
  • 術後の転倒

ブロックの効果は、病棟に戻ってからも続いています。

末梢神経ブロックに関するよくある質問

末梢神経ブロックに関するよくある質問を表すバナー画像

研修医からよく出る質問をまとめました。どのブロックを選ぶかは症例や施設によって変わるので、実際には指導医の方針を確認してください。迷ったときは、なぜそのブロックを選んだのかを指導医に聞いてみてください。

神経ブロックと硬膜外麻酔はどちらがよく効きますか

どちらが上ということはありません。左右両側の広い範囲に効かせたいなら硬膜外麻酔、片側や部位を絞りたいならブロックというように、手術と患者に合わせて選びます。効き方の違いで選ぶもので、優劣ではありません。

抗血栓薬を飲んでいてもブロックはできますか

体表面の神経ブロックは出血リスクの低い群に分類されており、選択肢になりやすい方法です。ただし、ガイドラインではブロックごと・薬ごとに個別の判断や休薬期間が示されています(出典:抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン)。内服している薬に合わせて、ガイドラインで確かめてから判断します。

RSBとTAPBの違いは何ですか

主に、効く場所の違いです。腹直筋鞘ブロック(RSB)はお腹の正中の傷に、腹横筋膜面ブロック(TAPB)は下腹部や側腹部の傷に使われます。傷の位置を見れば、どちらを選ぶかの見当がつきます。

ブロックの効果はどのくらい続きますか

使う局所麻酔薬の種類や量、ブロックの方法によって変わります。神経の近くにカテーテルを留置して持続で投与すれば、効果を延ばすこともできます。術後の痛みが強い時期に合わせて、続け方を考えます。

ブロックだけで手術を行うこともありますか

あります。局所麻酔薬中毒のプラクティカルガイドでも、重い合併症をもつ患者で、区域麻酔のみで麻酔域を得て手術を安全に行えたという報告が多いと述べられています(出典:日本麻酔科学会 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド)。全身麻酔を避けたい患者では、ブロックが主役になることもあります。

研修医がまず覚えることは何ですか

部位ごとの代表的なブロック(体幹のRSBとTAPB、上肢のBPB、下肢のFNBとSNB)と、ブロックの場面で針先と血管内投与を見ることです。名前と部位を結びつけておくだけで、手術室での会話がぐっと分かりやすくなります。

まとめ 末梢神経ブロック

末梢神経ブロックのまとめを表すバナー画像

末梢神経ブロックは、手術する部位の神経だけに局所麻酔薬を効かせる方法です。硬膜外麻酔より範囲を絞れ、体表面のブロックは出血リスクの低い群に分類されているので、抗血栓薬を飲んでいる患者や片側の手術で選択肢になります。どのブロックを選ぶかは症例によって変わるので、選んだ理由を説明できることが大切です。

この記事の振り返り
  • 部位を絞って効かせられる
  • 体表面のブロックは出血リスクが低い群
  • 抗血栓薬や術式で選ぶ
  • 体幹・上肢・下肢の代表的なブロック
  • 針先と血管内投与を見る

次にブロックの場面に立ち会ったら、超音波の画面で針先を一緒に探してみてください。何を確かめながら進めているのかが見えてきます。

当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。区域麻酔は【硬膜外麻酔とは】全身麻酔があるのになぜ併用するのかと【脊髄くも膜下麻酔とは】硬膜外麻酔と何がどう違うのかにもまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。

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