手術室のモニターの画面には数字と波形が並んでいますが、どこを見ればよいのか分からないまま手術室に立っている。麻酔科をローテートした研修医から、よく聞く悩みです。
- 見るべき数値の優先順位
- 波形から分かること
- 数値が動いたときの対応
- アラームが鳴ったときの動き
モニターは、患者の状態を映す窓のようなものです。大事なのは数値を覚えることではなく、変化に気づいて原因を切り分けることです。

画面に数字が多すぎて、どこから見ればいいのか分かりません。

見る順番を決めておくといいですよ。変化に気づけるようになると、画面の景色が変わります。
この記事では、麻酔中に使うモニターの種類と役割、波形から読み取れること、そして数値が急に動いたときの確認の順番までを整理します。数値の目安も挙げますが、患者や術式によって変わるため、実際の判断は指導医に確認してください。
麻酔中にモニターを見る目的

麻酔中の患者は、自分の状態を言葉で伝えられません。痛い、息が苦しい、気持ちが悪い。そうした訴えの代わりになるのがモニターです。モニターを見る目的は、数値を記録することではなく、変化に早く気づくことにあります。まずは何のために画面を見ているのかを整理しておきましょう。
変化に早く気づく
モニターの一番の役割は、異変を早く知らせることです。
手術中の状態は数分で変わります。出血、体位変換、薬の投与。そのたびに呼吸や循環は動きます。目で見て分かるより先に、数値や波形に変化が現れることも少なくありません。
- 出血による血圧の変化
- 体位変換に伴う循環の変動
- 薬の効果が現れる瞬間
気づくのが早いほど、打てる手は多くなります。
原因を切り分ける
モニターは、何が起きているかを推測する手がかりにもなります。
血圧が下がったとき、出血なのか、麻酔が深いのか、体位の影響なのか。1つの数値だけでは分かりませんが、複数の数値と波形を組み合わせると原因の候補を絞れます。
数値は単独ではなく、組み合わせて読むものです。
記録として残す
モニターの値は、麻酔記録として残ります。
術中に何が起きて、どう対応したのか。記録は術後の管理を引き継ぐときにも、後から振り返るときにも使われます。
- 術後管理への引き継ぎ
- 振り返りのための資料
- 経過を説明する根拠
記録に残ることを意識すると、対応した理由まで説明できるようになります。
標準的に使うモニターの種類

日本麻酔科学会は、安全な麻酔のために備えるべきモニターを安全な麻酔のためのモニター指針として公開しています。全身麻酔だけでなく、硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔にも適用される内容です。酸素化と換気、循環、体温。この4つを見る仕組みが麻酔中の基本になります。ここでは、それぞれのモニターが何を見ているのかを確認していきます。
酸素化を見るパルスオキシメータ
指先などに付けて、血液中の酸素の飽和度を測ります。
麻酔中は高い濃度の酸素で管理することが多いため、通常は100%に近い値を保ちます。値が下がるときは、換気か循環のどこかに問題が起きているサインです。
- 酸素飽和度の値
- 脈拍の数と波形
- 装着した部位の血流
決まった数値で区切るより、その患者の麻酔前の値からどれだけ下がったかで見ます。下がり始めた時点で原因を探すのが基本です。
換気を見るカプノメータ
吐いた息に含まれる二酸化炭素の濃度を測ります。
息を吐くたびに波形が現れ、その高さと形から換気の状態が分かります。数値はおおよそ35から45mmHgを目安に、換気量を調整していきます。
- 呼気終末の二酸化炭素の値
- 波形が出ているかどうか
- 波形の形と高さ
波形が繰り返し出ていることは、気管にチューブが入っている何よりの証拠になります。挿管の確認については【気管挿管のコツ】声門が見えないときに見直す順番で詳しく解説しています。
循環を見る心電図と血圧
心電図と血圧は、循環を見る基本のモニターです。
心電図では心拍数とリズム、虚血を示す変化を追います。血圧は指針では原則5分間隔で測定することとされており、必要に応じて動脈圧ラインを使い1拍ごとに測ります。
- 心拍数とリズム
- 虚血を示す変化
- 5分間隔での血圧測定
- 必要に応じた動脈圧ライン
血圧は絶対値だけでなく、その患者の普段の値からどれだけ下がったかで見ます。動脈圧ラインの取り方は【ルートの取り方】研修医が失敗しにくくなる血管選びと手順にまとめました。
体温のモニター
麻酔中は体温が下がりやすくなります。
麻酔薬によって体温を調節する働きが抑えられ、手術室の室温や輸液の影響も受けるためです。低体温は覚醒の遅れや出血量の増加につながります。
- 中枢温の測定
- 加温装置の使用
- 輸液や洗浄液の温度
中枢温が36℃を下回らないように、早めに加温を始めます。
手術室のモニターで見る項目の一覧
ここまでのモニターを、手術室の画面で見る項目として一覧にまとめます。
| モニター | 画面の表示 | 見ていること | 目安 |
|---|---|---|---|
| パルスオキシメータ | SpO2、脈波 | 酸素化 | 麻酔前の値からの下がり方 |
| カプノメータ | EtCO2、波形 | 換気、挿管の確認 | 35〜45mmHg |
| 心電図 | 心拍数、波形 | リズム、虚血 | 普段の心拍数との違い |
| 血圧計 | 収縮期・拡張期・平均血圧 | 循環 | 原則5分ごと。普段の値から2割以上の低下が続けば対応 |
| 動脈圧ライン | 1拍ごとの血圧と波形 | 循環 | 必要な症例のみ |
| 体温計 | 中枢温 | 体温 | 36℃を下回らないように |
数値の目安は出発点で、その患者の普段の値と比べて判断します。全身麻酔中も区域麻酔中も、見る項目は基本的に同じです。
麻酔の深さと筋弛緩のモニター

酸素化や循環に加えて、麻酔そのものの効き具合を見るモニターもあります。麻酔の深さと、筋弛緩の程度です。どちらも、外から見ただけでは分からない部分を数値にしてくれます。全身麻酔の3要素とあわせて理解すると、意味がつかみやすくなります。
脳波を使うBISモニター
額にセンサーを貼り、脳波から麻酔の深さを推定します。
数値は0から100までで表され、全身麻酔中は40から60程度を目安にします。浅すぎれば術中に意識が残る危険があり、深すぎれば覚醒が遅れたり循環が不安定になったりします。
- 麻酔の深さの目安となる数値
- 浅くなったときの上昇
- 深すぎるときの低下
吸入麻酔薬のように濃度で深さを推し量れない静脈麻酔では、とくに頼りになります。
吸入麻酔薬の濃度とMAC
吸入麻酔薬を使う場合は、吐いた息に含まれる薬の濃度を見ます。
MACは、半数の患者が皮膚切開で動かなくなる濃度を表す指標です。年齢や併用する薬によって必要な濃度は変わるため、MACを目安にしながら患者の反応を見て調整していきます。
数値はあくまで目安で、最後に判断の材料になるのは患者の反応です。麻酔の3要素については【全身麻酔の3要素】1つ欠けると何が起きるのかを現役医師が解説にまとめました。
筋弛緩を見るTOF
末梢の神経を刺激し、筋肉の反応から筋弛緩の程度を測ります。
4回続けて刺激したときの反応の出方で、効き具合が分かります。挿管のタイミングを判断するときにも、抜管の前に回復を確認するときにも使います。抜管前にどこまで戻っていればよいかは、【抜管の基準】研修医が押さえる4つの条件と迷ったときの判断にまとめました。
- 挿管前の効き具合の確認
- 術中の追加投与の判断
- 抜管前の回復の確認
抜管の前には、TOF比が0.9以上に回復していることを確認します。
波形から読み取れること

モニターの画面には、数値だけでなく波形も表示されています。数値が結果の一点であるのに対し、波形はそこに至る経過を見せてくれます。同じ数値でも、波形の形が違えば起きていることは違います。ここでは代表的な3つの波形を取り上げます。
カプノグラムの形
呼気の二酸化炭素を時間の流れで表したものがカプノグラムです。
正常なら四角に近い形になります。傾きが強くなっていれば息を吐き出しにくい状態を、波形が消えれば換気が届いていないことを示します。
- 四角に近い正常な形
- 傾きが強くなる呼気の遅れ
- 波形そのものの消失
形が変わったときは、数値が正常の範囲でも原因を探してください。
心電図の波形
心電図は、リズムの異常と虚血を見るために追います。
不整脈が出ていないか、ST部分が変化していないかが主な確認点です。手術中は電気メスの影響でノイズが入ることも多く、波形が乱れているだけなのか本当の変化なのかを見分ける必要があります。
迷ったときは、脈波や血圧とあわせて確かめてください。
動脈圧の波形
動脈圧ラインを入れると、1拍ごとの圧の変化が波形で見えます。
立ち上がりの鋭さや波形の形から、心臓の収縮の勢いや血管の張り具合を推し量ることができます。呼吸に合わせて波形の高さが変動する場合は、循環血液量が不足している可能性を考えます。
- 立ち上がりの鋭さ
- 呼吸に伴う高さの変動
- なまった波形
波形がなまっているときは、回路や刺入部の状態も確認します。
麻酔器の画面で見る項目

麻酔器の画面には、生体モニターとは別の数字が並んでいます。気道内圧、一回換気量、呼吸回数、そして圧とフローの波形です。これらは患者の肺の状態と、気道確保がうまくいっているかどうかの両方を映します。見るときに大事なのは、ひとつひとつの絶対値よりも変化のほうです。術中に変化があったら、その理由を説明できるかどうかが問われます。
気道内圧の見方
気道内圧は、まず高くなりすぎていないかを見ます。
高い圧で換気を続けることは、肺にとって負担です。筆者は研修医に、ピーク圧があまり高くならないように管理しようと伝えています。術中に上がってきたときに考えるのは、次のようなことです。
- 喘息発作
- 気管チューブの閉塞や屈曲
- 分泌物による狭窄
- 片肺挿管
- 体位の変化や気腹
数字そのものより、術中に上がってきたという変化のほうが重要です。喘息のように術前から分かっているリスクは、【術前評価のポイント】麻酔科医が手術前日までに見る項目の段階で押さえておきます。
一回換気量と呼吸回数
ここで見るのは、設定した換気量が実際に入っているかどうかです。
麻酔器には、設定した量と実際に出入りした量の両方が表示されます。この2つがずれていれば、どこかで漏れているか、肺が硬くなっている可能性があります。呼気の二酸化炭素と合わせて見ると、換気が足りているかの判断がしやすくなるはずです。
- 設定した量と実測の量のずれ
- 回路やカフからのリーク
- 呼気二酸化炭素との組み合わせ
入れているつもりの量が、そのまま入っているとはかぎりません。
圧とフローの波形
筆者はフローの波形を毎回見るようにしています。
いちばん確かめたいのは、きちんと吐き切れているかどうかです。呼気のフローがゼロに戻りきる前に次の吸気が始まっていれば、吐き切れないまま空気が肺にたまっていきます。
- 呼気のフローがゼロまで戻っているか
- 戻りきる前に次の吸気が始まっていないか
- 波形の形がいつもと違わないか
波形は数字より先に変わります。形の変化に気づけると、数字が動く前に手を打てます。
数値が急に変わったときの見方

ここからが本題です。数値が動いたときに、何をどの順で確認するのかを整理します。大切なのは、画面の前で考え込まず、まず患者と回路に手を伸ばすことです。代表的な4つの場面について、確認の順番を見ていきましょう。
酸素飽和度が下がったとき
まずは酸素濃度を上げ、換気を自分の手で確かめます。
人工呼吸器から用手換気に切り替えると、バッグの抵抗や胸の上がり方が手に伝わります。機械の数値だけでは分からない情報が、そこで得られます。
- 酸素濃度を上げる
- 用手換気に切り替える
- バッグの抵抗と胸の動きを確かめる
そのうえで、DOPEという言葉を思い出してください。チューブの位置のずれ、閉塞、気胸、機器の異常。この4つを順に確認していくと、原因にたどり着きやすくなります。
呼気二酸化炭素が変わったとき
値が下がったのか上がったのかで、考える原因が変わります。
急に下がった場合は、換気が届いていないか、肺に血液が流れていない可能性があります。上がってきた場合は、換気量の不足や体内で二酸化炭素が増える状態を考えます。急な低下は、肺塞栓症や心停止の前触れのこともあります。その対応は【術中心停止の対応】研修医が押さえる止まる前のサインと最初の1分にまとめました。
- 急な低下では換気と循環
- 緩やかな上昇では換気量
- 形そのものの変化
波形ごと消えた場合は、回路が外れていないかを最初に確認します。
血圧が下がったとき
血圧の低下は、麻酔中に最もよく出会う変化です。
麻酔が深すぎないか、出血していないか、体位や手術操作の影響を受けていないか。順に確認しながら、必要であれば輸液や昇圧薬で対応します。
- 麻酔の深さ
- 出血の量
- 体位と手術操作
- 心臓のポンプ機能
普段の血圧から2割以上下がった状態が続くときは、様子を見ずに対応します。下がったときに確かめる順番と昇圧薬の使い分けは、【術中の血圧低下の対応】研修医が最初に確かめる順番と昇圧薬の基本で解説しました。
心拍数が変わったとき
心拍数は、痛みや麻酔の深さ、薬の影響を映します。
速くなった場合は痛みや麻酔の浅さ、出血などを考えます。遅くなった場合は、迷走神経反射や薬の影響を疑います。
心拍数だけで判断せず、血圧や波形とあわせて読んでください。
モニターを信じすぎない

モニターは便利ですが、万能ではありません。表示されている数値が、患者の状態をそのまま表しているとは限らないからです。数値がおかしいと感じたら、モニターのほうを疑うことも必要です。ここでは、誤差が生まれる場面とその確かめ方を挙げます。
体動やノイズによる誤差
体動や電気メスの影響で、波形が乱れることがあります。
酸素飽和度が急に下がったように見えても、実際は指が動いただけということもあります。心電図に見慣れない波形が出たときも、まずノイズを疑います。
- 体動による乱れ
- 電気メスのノイズ
- 接続の緩み
変化が本物かどうかは、別のモニターとあわせて確かめます。
センサーの位置と装着
センサーが正しく付いていなければ、正しい値は出ません。
指先が冷たい、圧迫されている、血圧計を巻いた側に付けている。どれも値が乱れる原因になります。血圧計とパルスオキシメータは、別の腕に付けるのが基本です。
値がおかしいときは、まず装着の状態を見に行ってください。
患者を直接見る
最後に頼りになるのは、画面ではなく患者です。
胸が動いているか、顔色はどうか、術野からの出血はどうか。モニターの数値と目の前の患者が食い違うときは、患者のほうが正しいことがよくあります。
- 胸郭の動き
- 皮膚の色と温かさ
- 術野の状況
画面から目を上げて患者を見る習慣が、最後の安全網になります。
麻酔のモニターのよくある質問

麻酔中のモニターについて、研修医からよく受ける質問をまとめました。数値の目安は患者や術式によって変わるため、実際の判断は指導医に確認してください。ここでは考え方の軸をお伝えします。
モニターを見る順番の決め方
自分なりの順番を決めておくと、見落としが減ります。酸素化、換気、循環という順で見ていくと、生命に直結する順番で確認できます。順番を固定することが、慣れないうちの最大の対策です。慣れてくると、画面全体を一目で見渡せるようになります。
アラームが鳴ったときの対応
まず患者を見て、それから画面を見ます。アラームを消すことが目的ではありません。設定を変えて音を止める前に、その値が本当に問題ないのかを確かめてください。アラームの設定を患者に合わせて調整しておくことも大切です。
動脈圧ラインを入れる判断
循環が大きく変わる手術や、心臓に病気のある患者では、1拍ごとの血圧が必要になります。血液検査を繰り返す場合にも役立ちます。連続して血圧を見る必要があるかどうかが判断の軸になります。取り方は【ルートの取り方】研修医が失敗しにくくなる血管選びと手順にまとめました。
低体温を防ぐ方法
体の熱が奪われる経路は、輻射、伝導、対流、蒸発の4つに分けて考えることができます。
- 周りの空間へ熱が逃げる輻射
- 冷たい手術台や輸液へ熱が移る伝導
- 空気の流れに熱が奪われる対流
- 皮膚や術野の水分とともに熱が逃げる蒸発
この4つをもとに、どこから熱が逃げているのかを考えてみましょう。輻射には室温を上げて体を覆う、伝導には加温マットや温めた輸液を使う、対流には温風式の加温装置を使う、蒸発には術野の露出を必要な範囲にとどめる。熱の逃げ道が分かれば、打つべき対策は自然と決まります。麻酔が始まる前から温めておくと、体温の下がり方も緩やかになります。
手術室の看護師が見ておくとよい項目
酸素飽和度と血圧、心拍数の変化に気づけると、チームとしての安全性が上がります。体位変換や消毒の前後は、循環が動きやすい場面です。気になる変化に気づいたら、遠慮せず声をかけてください。
モニターの勉強に何を使うか
学会が公開している安全な麻酔のためのモニター指針に一度目を通しておくと、何を備えるべきかの全体像がつかめます。あとは症例ごとに、数値が動いた理由を指導医に聞くのが近道です。教科書を読むより、目の前で動いた数値のほうが記憶に残ります。
まとめ 麻酔のモニターの見方

麻酔中のモニターは、話せない患者の代わりに状態を教えてくれる存在です。酸素化と換気、循環、体温という基本を押さえ、そこに麻酔の深さと筋弛緩を加えて見ていく。数値が動いたら、画面の前で考え込まずに患者と回路を確かめる。この順番が身につけば、画面は怖いものではなくなります。
- 学会の指針が示す基本のモニター
- 数値と波形を組み合わせた判断
- 酸素飽和度が下がったときのDOPE
- 普段の血圧からの下がり幅
- 画面より患者を見る習慣
次の症例では、数値が動いた理由を1つだけ言葉にして帰ってください。それを積み重ねるうちに、画面の見え方が変わってきます。
当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。麻酔科研修の全体像は【麻酔科研修医のホントのところ】ローテ前の準備と評価される動き方に、全身麻酔の仕組みは【全身麻酔の3要素】1つ欠けると何が起きるのかを現役医師が解説に、導入の流れは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことにまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。


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