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【麻酔器の始業点検】その点検は何を防ぐのか現役麻酔科医が解説

麻酔器の始業点検を表すアイキャッチ画像 術中の管理と危機対応

麻酔器の始業点検を誰が行うかは、施設によって違います。臨床工学技士が担当している施設でも、臨時の手術では麻酔科医が自分で点検することがあります。そのとき、手順は画面の指示どおりに進められても、なぜその点検をするのかまでは分からない。研修医がつまずくのはここです。

こんな場面はありませんか
  • 点検の手順を画面に頼っている
  • セルフチェックだけで済ませている
  • リークテストの意味があいまい
  • 臨時の手術で点検に戸惑う

点検の多くは、麻酔器の指示どおりに進めれば大丈夫です。ただ、リークテストだけは、自分の手で必ず行ったほうがよいと筆者は考えています。

麻酔器の始業点検に迷う研修医のアイコン
研修医

セルフチェックが通ったので、点検は終わりで大丈夫ですよね。

現役麻酔科医のアイコン
麻酔科医

ほとんどはそれでいいですよ。でも、リークテストだけは自分の手でやってください。導入の直前にもう一度です。

この記事では、日本麻酔科学会の「麻酔器の始業点検」をもとに、それぞれの点検が何を防いでいるのかを整理します。機種によって手順は違うので、点検項目の一覧ではなく、理由のほうに絞りました。

始業点検を自分で行う場面

始業点検を自分で行う場面を表すバナー画像

臨床工学技士が担当する施設もあれば、麻酔科医が自分で行う施設もあります。ただ、どちらの施設で働いていても、自分で点検しなければならない場面は必ずやってきます。誰が点検したとしても、その麻酔器で麻酔管理をするのは自分です。

普段は臨床工学技士が行う施設

筆者の施設では、普段の始業点検は臨床工学技士が行っています。

専門の職種が毎朝決まった手順で点検してくれるので、点検の質は安定します。一方で、麻酔科医の側は点検の中身に触れる機会が少なくなります。

  • 点検の質が安定する
  • 麻酔科医が点検に触れる機会が減る
  • 手順を覚えないまま過ぎてしまう

任せられる環境ほど、自分で点検する力は育ちにくくなります。

臨時の手術では自分で行う

夜間や休日の臨時の手術では、麻酔科医が自分で点検します。

臨床工学技士がすぐにはいない時間帯に、急いで麻酔の準備をする場面です。筆者も大学病院にいたころは、普段から自分で点検していました。働く施設が変われば、点検をする側に回ることもあります。

  • 夜間や休日の臨時の手術
  • 臨床工学技士がいない時間帯
  • 自分で点検する施設への異動

急いでいるときほど、点検の意味を知っているかどうかで差が出ます。

理由を知っておく意味

手順そのものは、麻酔器の画面が案内してくれます。

ただ、なぜその点検をするのかを知らなければ、どこを省いてはいけないのかが分かりません。機種が変わっても応用が利くのは、手順ではなく理由のほうです。

理由を知っていれば、初めて触る麻酔器でも点検の要所を外しません。

ガス供給の点検

ガス供給の点検を表すバナー画像

最初に確認するのは、酸素がきちんと供給されるかどうかです。指針は、配管やボンベからのガス供給が突然途絶する可能性を常に考えて、対策を立てておくことが重要だとしています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。ガス供給の点検は、酸素が止まったときに備える点検です。

補助ボンベの確認

麻酔器には、配管とは別に補助ボンベが付いています。

配管からの酸素が止まったときに使う予備です。指針では、補助ボンベを開いて圧を確認し、酸素が流れることを確かめるとされています。天井から吊り下げる型の麻酔器のように補助ボンベを付けにくい場合でも、いつでも使えるよう準備しておく必要があります(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。

  • 配管が止まったときの予備
  • 圧と流量を確かめる
  • 付けにくい麻酔器でも準備しておく

予備のボンベは、使えなければ予備になりません。

酸素が止まると亜酸化窒素も止まる仕組み

酸素の供給が止まると、亜酸化窒素も止まる仕組みがあります。

指針はこの仕組みについて、酸素の供給圧が不良になった場合に、酸素濃度の低い混合ガスを流し続けるよりも、ほかのすべてのガスの供給を止めたほうが安全だという考えで装備されていると説明しています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。点検では、酸素を止めたときにアラームが鳴り、亜酸化窒素が遮断されることを確かめます。

  • 酸素が止まれば亜酸化窒素も止まる
  • アラームが鳴ることを確かめる
  • 低い酸素濃度のガスを流さないため

低い酸素濃度のガスが流れ続けることを防ぐ仕組みです。

自己膨張式バッグの常備

麻酔器そのものが使えなくなる場面も考えておきます。

指針は、緊急用の自己膨張式バッグ(バッグバルブマスク)を常備しておくべきだとしています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。ガスの供給が止まっても、自己膨張式バッグがあれば空気で換気を続けられます。換気の手技は【マスク換気のコツ】研修医が押さえる持ち方と見直す順番にまとめました。

麻酔器が止まったときに頼れるのは、手元のバッグです。

気化器と酸素濃度計の点検

気化器と酸素濃度計の点検を表すバナー画像

次に、吸入麻酔薬を気化させる気化器と、酸素濃度計を確認します。どちらも、患者に届くガスの中身が正しいかどうかに関わる部分です。流しているつもりのガスと、実際に流れているガスが同じかを確かめます。

気化器の残量と注入栓

気化器では、まず薬液の量と注入栓を確認します。

指針では、内容量を確認し、注入栓をしっかり閉め、ダイアルをOFFにした状態で酸素を流してにおいがないことを確かめるとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。OFFなのににおいがすれば、使っていないはずの麻酔薬が漏れていることになります。

  • 薬液の量
  • 注入栓の閉め忘れ
  • OFFでにおいがしないこと

OFFのときに何も出ていないことを確かめるのが、気化器の点検の要です。

2つの気化器が同時に回らないこと

気化器が2つ付いている麻酔器もあります。

指針では、気化器が2つ以上ある場合に、同時に複数のダイアルが回らないことを確認するとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。2種類の吸入麻酔薬が同時に流れることを防ぐための仕組みです。

片方を回したら、もう片方が回らないことを手で確かめてください。

酸素濃度計の較正

酸素濃度計は、流しているガスの酸素濃度を教えてくれるモニターです。

指針では、センサーを大気に開放して21%に合わせ、回路に組み込んで酸素を流したときに100%まで上がることを確かめるとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。表示が正しくなければ、酸素濃度の低いガスが流れていても気づけません。

  • 大気で21%に合わせる
  • 酸素を流して100%まで上がるか
  • 表示を信じてよいかを確かめる

酸素濃度計は、表示が正しいと確かめてから初めて頼れます。

リークテストを自分で行う理由

リークテストを自分で行う理由を表すバナー画像

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。筆者は、ほかの点検は麻酔器の指示どおりに進めればよいと考えていますが、リークテストだけは自分の手で必ず行ったほうがよいと思っています。理由は、セルフチェックでは拾えない場面があることと、リークの起こりやすい場所が決まっていることです。リークテストは、自分の目と手で回路を確かめる唯一の機会です。

セルフチェックだけでは足りない場面

最近の麻酔器には、自動で点検するセルフチェック機構が付いています。

指針も、セルフチェック機構がある麻酔器ではその手順に準じて行うとしています。ただし同時に、回路のリークの検知を主な目的としていて、回路の閉塞を検出できない機種もあると注意しています。人工鼻やガスサンプリングチューブ、センサーなどを付けずにセルフチェックをした場合は、付けたあとに改めてリークと閉塞がないことを確かめるよう書かれています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。

  • 閉塞を検出できない機種がある
  • セルフチェックのあとに付けた部品は見ていない
  • 付けたあとに改めて確かめる

セルフチェックが通っても、そのあとに付けた部品の分は確かめられていません。

リークが起こりやすい場所

リークの起こりやすい場所は、ある程度決まっています。

指針によると、呼吸回路の接続部はつなぎやすい反面、外れやすく、外れやリークの報告は大変多いとされています。また、二酸化炭素吸収装置はリークの起こる可能性が一番大きい部分で、ネジのゆるみやパッキングの破損、吸収剤の粒がはさまることなどが原因になります(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。

  • つなぎやすく外れやすい接続部
  • リークがいちばん多い二酸化炭素吸収装置
  • ネジのゆるみや吸収剤のはさまり

リークを見つけたら、まず接続部と吸収装置を疑ってください。

リークテストの基本的な手順

手順は機種によって違うので、ここでは指針にある一般的な方法を紹介します。

新鮮ガス流量を最少にしてAPL弁を閉め、Yピースを塞ぎます。酸素で呼吸バッグを膨らませて回路内圧を30cmH2Oまで上げ、さらにバッグを押して40〜50cmH2Oにします。手を離して30cmH2Oに戻し、酸素を止めた状態で30秒間保ち、圧の低下が5cmH2O以内であることを確かめます。最後にAPL弁を開いて、圧が下がることを確認します(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。

  • APL弁を閉めてYピースを塞ぐ
  • 圧を上げて保てるかを見る
  • APL弁を開いて圧が下がるか

麻酔器に自動リークテストの機能がある場合は、それを優先するとされています。どの方法でも、圧を上げて保てるかという考え方は同じです。

人工呼吸器とアラームの点検

人工呼吸器とアラームの点検を表すバナー画像

回路にリークがないことを確かめたら、換気の動きとアラームを確認します。術中に回路が外れたり詰まったりしたとき、最初に知らせてくれるのはアラームです。アラームの点検は、術中の異常に気づくための準備です。

用手換気での弁の動き

まず、手でバッグを押して換気の動きを確かめます。

指針では、テスト肺を付けてバッグを押し、吸気弁と呼気弁が動くこと、テスト肺が膨らんでしぼむことを確認するとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。弁が正しく動かなければ、吐いた息を再び吸い込むことになります。

  • 吸気弁と呼気弁の動き
  • テスト肺の膨らみとしぼみ
  • 圧力計の表示

バッグを押したときの手応えも、点検の一部です。

低圧アラームと高圧アラーム

次に、人工呼吸器のアラームが鳴るかを確かめます。

指針では、テスト肺を外して低圧アラームを、回路を塞いで高圧アラームを確認するとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。低圧アラームは回路の外れに、高圧アラームは回路の閉塞や屈曲に気づくためのものです。

  • テスト肺を外して低圧アラーム
  • 回路を塞いで高圧アラーム
  • 換気量が少ないときのアラーム

鳴るはずのアラームが鳴ることを、使う前に確かめておきます。

アラームを確かめる意味

術中は、ずっとモニターを見続けられるわけではありません。

記録や薬の準備をしている間に回路が外れても、アラームが鳴れば気づけます。逆に、アラームが鳴らなければ、気づくのは酸素飽和度が下がってからになります。モニターの見方は【麻酔のモニターの見方】研修医が最初に押さえる数値と波形にまとめました。

アラームは、目を離した瞬間を守ってくれるものです。

麻酔導入直前の確認

麻酔導入直前の確認を表すバナー画像

始業点検は朝に一度行えば終わりではありません。筆者は、麻酔導入の直前にもリークテストを行うように伝えています。朝の点検のあとに回路を付け替えたり、人工鼻やサンプリングチューブを付けたりしているからです。指針にも、導入直前の確認項目が設けられています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。朝の点検と導入直前の確認は、別のものとして考えてください。

導入直前にもう一度リークテスト

導入の直前に、もう一度リークテストを行います。

朝に点検したときと、実際に患者につなぐ回路は同じとは限りません。人工鼻やアングルピース、サンプリングチューブを付けた状態で、改めてリークがないことを確かめます。

  • 付けた部品も含めて確かめる
  • 回路を付け替えたら確かめ直す
  • 患者につなぐ直前に行う

患者につなぐ回路そのものを、導入の直前に確かめます。

回路が閉塞していないことの確認

リークだけでなく、閉塞がないことも確かめます。

指針では、導入の直前に人工鼻の患者側を塞いでAPL弁を閉じ、酸素フラッシュで回路内圧を上げたあと、人工鼻の患者側を開放して、ガスが勢いよく出て回路内圧が0になることを確認するとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。ガスが抜けなければ、どこかが詰まっているということです。

圧が上がることと、抜けることの両方を確かめます。

マスクを当てて数値を確かめる

最後は、患者にマスクを当てて確かめます。

指針では、患者の状態に問題がなければ、マスクを密着させて酸素を投与し、SpO2とEtCO2の値を確認するとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。二酸化炭素の波形が出れば、回路を通して換気ができていることが分かります。導入全体の流れは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことにまとめました。

  • マスクを密着させる
  • SpO2を確かめる
  • 二酸化炭素の波形が出るかを見る

患者の呼吸で回路が動くことを見て、点検は完了です。

始業点検に関するよくある質問

始業点検に関するよくある質問を表すバナー画像

研修医からよく出る質問をまとめました。点検の手順は機種や施設によって違うので、実際には自分の施設の手順書と麻酔器の取扱説明書に従ってください。迷ったときは、臨床工学技士に聞くのがいちばん確実です。

セルフチェックがあれば自分で点検しなくてよいですか

点検の多くはセルフチェックの手順に従えば大丈夫です。ただし回路の閉塞を検出できない機種もあり、あとから付けた部品の分は確かめられていません。リークテストだけは、自分の手で行ってください。

リークテストで圧が保てないときはどうしますか

まず接続部と二酸化炭素吸収装置を確認します。指針では、どちらもリークの多い場所とされています。原因が分からなければ、その麻酔器は使わずに臨床工学技士へ連絡します。

低圧回路系のリークテストも研修医が行いますか

指針では、麻酔器の低圧回路系のリークテストは、基本的に臨床工学技士の保守点検やメーカーの定期点検で行うとされています(出典:日本麻酔科学会 麻酔器の始業点検(2022年10月改訂第6版3))。研修医が毎回行うのは、呼吸回路のリークテストです。

自己膨張式バッグは必ず必要ですか

指針は、緊急用の自己膨張式バッグを常備しておくべきだとしています。ガスの供給が途絶えたときに、換気を続ける手段になります。手術室に入ったら、どこにあるかを最初に確かめておきましょう。

始業点検は1日に1回でよいですか

朝の始業点検に加えて、麻酔導入の直前にも確認します。指針にも導入直前の確認項目があります。症例ごとに、導入の直前のリークテストは行ってください。

研修医がまず覚えることは何ですか

リークテストの手順と、その意味です。ほかの項目は麻酔器の指示に従えば進められますが、リークテストは自分の手で行う場面が残ります。圧を上げて保てるか、抜けるかの2つを覚えてください。

まとめ 麻酔器の始業点検

麻酔器の始業点検のまとめを表すバナー画像

麻酔器の始業点検は、普段は臨床工学技士が行っている施設でも、臨時の手術では自分で行うことになります。手順の多くは麻酔器の指示どおりで大丈夫です。ただし、リークテストだけは自分の手で必ず行い、麻酔導入の直前にもう一度確かめてください。

この記事の振り返り
  • ガス供給の点検は酸素が止まったときの備え
  • 気化器はOFFで何も出ないことを確認
  • セルフチェックでは閉塞を拾えない機種がある
  • リークは接続部と吸収装置に多い
  • 導入の直前にもリークテスト

次に麻酔器の前に立ったら、リークテストだけは自分の手でやってみてください。圧が上がって保てること、抜けること。その2つを確かめるだけで、防げる事故があります。

当ブログでは、麻酔科の現場で実際に行われていることを現役麻酔科医の視点で発信しています。導入の流れは【麻酔導入の流れ】研修医が入室から挿管までに見るべきことに、マスク換気は【マスク換気のコツ】研修医が押さえる持ち方と見直す順番にまとめました。疑問があればコメント欄で聞かせてください。

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